アーノルド・シュワルツェネッガーといえば、ハリウッドのスターであり、元州知事という政治家としての顔があっても、日本人にとってはコミカルなCMにも登場した親しみやすいイメージがある。そのシュワルツェネッガーが10年ぶりに主演で本格復帰した『ラストスタンド』(1時間47分、4月27日より全国ロードショー)について、映画評論家の田沼雄一氏が解説する。
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カリフォルニア州知事として公務に励んできたアーノルド・シュワルツェネッガーが『ターミネーター3』(2003年)以来、10年ぶりの主演作で本格的カムバックを果たした(スタローン主演の『エクスペンダブルズ』シリーズへの参加は〈友情出演〉だった)。
シュワちゃんは今年66歳になる。そのお年で全盛期のような動きは無理というもの。割り引いて観てあげないと可哀相。ショットガンを手に町を襲う麻薬シンジケートの悪い奴らに立ち向かい、息を切らしながらも重くなった体をなんとかガンバッて動かそうとしている。涙ぐましい努力は評価してあげてもいい。
シュワちゃん演じるは、アメリカ合衆国とメキシコの国境沿いに位置する小さな町の保安官。麻薬捜査班で活躍した敏腕の元刑事という設定だ。脱獄した麻薬王がその町からメキシコへ逃亡しようとする。それをシュワちゃんが同僚や町の人たちとともに阻止するという西部劇風の荒っぽいお話である。
まぁ物語を愉しむ映画ではない。最大の魅力は老骨にムチ打つように保安官業に勤しむ主人公をシュワちゃんが等身大で演じているところ。体は思うように動かない、息も切れる、でもタフでガッツな気持ちだけは忘れない。『ターミネーター』(1984年)は37歳、『プレデター』(1987年)は40歳のときの主演作。精巧な機械、マシーン的なアクションが魅力だった時代はもう過去のもの。シュワちゃん自身がいちばんよく分かっている。
年齢からくる衰えは表情でも分かる。それでもシュワちゃんは一途に奮闘努力する。観ていて微笑ましい。クライマックスでは逃亡しようとする麻薬王を体当たりで阻止する。最大の見せ場はプロレスの大技、バックドロップが見事に決まる瞬間だ! シュワちゃんの格闘技アクション、ちょっと感動モノですよ。
■田沼雄一(たぬま・ゆういち)/映画評論家。主な著書に『映画を旅する』『野球映画超シュミ的コーサツ』など。
※週刊ポスト2013年5月17日号