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人気取りで排外主義的な政治家 サッチャーとは違うとの指摘

 4月8日、マーガレット・サッチャー元英首相が亡くなった。87歳だった。1990年代にサッチャー氏を直接取材している落合信彦氏が、当時の世界情勢を振り返り、サッチャー氏の卓越した政治家としての能力を語る。

* * *
 サッチャー氏の深い洞察力が、冷戦終結に大きく貢献したことに触れなければなるまい。

 1984年、まだソ連共産党政治局員だったミハイル・ゴルバチョフと会談した時のことだ。サッチャー氏は彼がそれまでのソ連の指導者層と違うことにいち早く気付いた。

 ペーパーを読み上げるだけの官僚的な対応をしなかったゴルバチョフの実力を見抜き、首相別邸で長時間にわたって会談。政治の話題だけでなく文学や哲学についても語り合ったという。

 翌日にはアメリカ大統領のロナルド・レーガンに電話をかけ、ゴルバチョフについて「一緒に仕事のできる人間だ。会って話をするべきだ」とアドヴァイスしたのである。

 その後、ゴルバチョフが党書記長となり、世界が冷戦終結へと動いていった流れは説明するまでもないだろう。国際政治がダイナミックに動いた時代の中心には、やはりサッチャー氏の存在があった。

 それに比べると、日本のみならずアメリカやヨーロッパを見ても、現代には当時のリーダーたちに比肩するような人材が見当たらない。もちろんこのことは世界全体が閉塞感に覆われていることと無縁ではない。

 日本の政治家がサッチャー氏の訃報に際し、「尊敬する政治家だった」などとコメントしていたが、彼女の本質を理解した上での発言かは疑問である。

 昨年までの民主党政権のように弱腰外交を続ける政府はサッチャー氏と比べるまでもないが、当座の人気取りのためにやたらと排外主義的で過激な発言をする政治家も、サッチャー氏とはまったく違う。

 インテリジェンスと信念を持ち、批判を恐れない精神の強さを持つ政治家がこの国に出てくるのはいつになるだろうか。そうしたリーダーの登場を私は待ち望んでいる。

※SAPIO2013年6月号

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