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芥川賞作家・黒田夏子 親の七光との批判イヤで本名明かさず

『abさんご』(文藝春秋)で第148回芥川賞を史上最年長で受賞した黒田夏子さん(76才)。20才で同人誌の創刊に参加、24才のときには国語教師の職を辞し、不安定なアルバイト生活に入る。8才で始めた日本舞踊の師範の免状を持っているので、それを仕事にできたらと考えたこともあったが、

「自分にとっては、書くことが何ものにも優先されるいちばんのこと。ですから、ほかのことはすべて捨てました。踊りをやめたときに、着物を着ることもやめてしまいました。以来、一度も袖を通していません」(黒田さん・以下同)

 結婚も考えたことはない。

「若いときは制御もききませんから恋もしましたし、人と一緒に暮らしたこともあります。でも、家族がいれば、たとえ物理的な時間はあっても意識が縛られますでしょう。もともとパートナー以外の家族は欲しくありませんでしたし」

 文字にした言葉だけを追うと、気難しくて、とっつきにくい人柄のようだが、話しぶりは優しくて、笑顔が絶えない。そのにこやかさで、

「私は強情なんです」と言う。

 20代半ばで『毬』が読売短編小説賞に入選し、選者から高い評価を受けた。

 でも、文芸誌の賞と違って次の仕事に結びつくわけではない。毎月の家賃が払えるかどうか、不安をかかえて、アルバイトでしのぐ暮らしが続いた。タオル問屋で名入れタオルをたたんで熨斗(のし)紙をかける単純労働についたこともある。高級料亭の帳場でも働いた。

「言葉にからまる仕事は、あえてしたくなかったのです。30才過ぎてから、もう他人の文章や言葉に影響されなくなったと思えたので、校正の仕事につきました」

 以来、さまざまな出版物の校正の仕事を続けながら、ひたすら書いてきた。周囲には、「誰それさんのような小説を書いたら」とか「○×先生に師事したら」、「女性作家は児童文学から手がけるといいよ」などと助言してくれる人もいた。なかには「お金持ちと結婚して、生活の苦労をしないで存分に書いたら」と言う人もいたが、著者は、

「自分は自分。他人は他人。好きな作品はたくさんありましたけど、似たものを書きたいと思うことはなくて、私の作品は私の言語感覚を貫くしかないと思っていました。ストーリーやキャラクターで読ませる作品を書くつもりはありませんでしたし、これからもありません」

 だから、ほかの作家が文学賞を受賞したり、ベストセラーを生んでも、まったくうらやましいとも思わないし、嫉妬も感じなかったという。

「黒田夏子」という名は、ペンネームだ。

「同人誌を始めるときに自分でつけた名前です。単純に、黒が好き、夏が好き、というところから選んだのですが、本名としていかにもありそうでいて、印象の弱すぎない名ということで考えました。それからは、通り名として、役所以外すべてのところで使っています」

 もちろん、クリーニング店にも黒田夏子という名で預ける。したがって、本名はまったく知られていない。ペンネームで生きてきた理由のひとつには、父親の七光といわれたくなかったということもある。

「もう今の若いかたたちは聞いてもわからないでしょうから、別にかまわないようなものですが、私と近い年代だと、“ああ、あの人の娘か”とわかるかたもいらっしゃると思うんです。そういうのがいやで、本名は明かしていないんです。こんなところも強情ですね(笑い)」

 4才のとき母を肺結核で亡くし、著者自身も感染した。必然的に家の中だけで過ごすひとり娘のために、学者の父親は絵本や童話をふんだんに買い与えた。こんな下地が、作家への道を開いたことはいうまでもない。

※女性セブン2013年5月30日号

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