【書評】『金沢の気骨 文化でまちづくり』山出保/北國新聞社/1680円
【評者】嵐山光三郎(作家)
著者の山出保氏は五期二〇年にわたって金沢市長を務めた。超がつくほどの反骨ガンコ市長で、国と対決して「補助金なんていらない」といったへそ曲りだ。公用車に乗らず、もっぱらタクシーで移動し、運転手と気さくに話をする。フランスの十八団体がやってきた国際会議には着物姿であらわれてカッコいいのなんの。型破りで純情で、全国市長会長を二期つとめた。着物姿で横丁を歩く姿が粋である。
兼六園や武家屋敷で知られる歴史都市に金沢21世紀美術館を作って、ルーブル美術館と合同企画展をやった。毎年、金沢JAZZ STREETを開催し、神社の境内で演奏会をする。市内にあったラブホテルが目ざわりなので、買いとって緑地にした。そのため「植木屋の回し者」と批判された。
金沢市を流れる犀川沿いにW坂というジグザグの坂があり、井上靖氏が旧制四高生だったときに柔道の稽古で登って「つらくて涙が出た」(小説『北の海』)という。そのW坂の下に雑居ビルがあって景観をさまたげるので、市でビルを買いとって壊してしまった。
乱暴でしょ。だけど、いまどきこれほどの辣腕をふるう市長がどこにいますか。茶屋街の養成事業を助成する。料理職人塾、工芸工房を開設する。伝統工芸の金沢和傘の職人が一人だけになってしまうと、自ら「弟子入りしたい」といい出した。きわめつけは旧町名復活で、住所表示から消えてしまった11の旧町名を復活した。旧町名が復活すると、朝市がたち、清掃活動が活発になり、住人の連携が強まった。反対する人がいても信念はまげない。
企画が斬新で、発想が豊か、実行力がある。市役所で最初の仕事は生活保護のケースワーカーだったから、貧乏人の味方である。こんな市長は見たことない。威張らず、気どらず、細部へ目が光る。昔なつかしい「私欲のない日本人」の気骨がある。わかりやすい文章で、具体的な話があり、町おこしをしようとする人への貴重なテキストになります。
※週刊ポスト2013年6月14日号