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サーカスを招聘する呼び屋が世界各国を旅した日々を綴った本

【書評】『サーカスは私の〈大学〉だった』大島幹雄/こぶし書房/1890円

【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)

 大島幹雄は「ツィルカッチ」(ロシア語で「サーカス野郎」)になって三十年を超えた「呼び屋」である。サーカス人生を振り返り、芸人たちとの出会い、世界各国を旅した日々をいきいきと綴った。

 何十回にも及んだロシアをはじめ、欧米諸国、モンゴル、ウズベキスタンなど、アジア諸国にも足を運んだ。どの国にもすばらしい芸人とツィルカッチがいて、すてきな物語を育んでいる。

 この世界に入ったのはひょんなきっかけだ。一九七九年、早稲田大学ロシア文学科を卒業。卒論は、ロシア演劇革新運動を展開したメイエルホリド。だが大学院の試験に落ちてしまい、翌年の受験に備えて生活費を稼ぐため、腰掛けのつもりで入社したのが、ソ連・東欧からのアーティストを招聘する会社だ。そこで大島青年に命じられたのは、来日したロシアのサーカス団の熊の世話係である。日本各地をトラックで走るうちに、芸人たちに魅せられていった。

 芸の力で軽々と国境を越えていく芸人たち、誇り高い彼らの姿がすてきだ。著者は芸を見れば、すぐに打ち解けてしまうようだ。犬山市(愛知県)のバス乗り場で偶然再会した芸人がいて、以前に会ったのは、カザフスタンだった、などとサラリと書く。ほどなくこの芸人たちと「桃太郎イリュージョン」日本公演を成功させる。各国のクラウン(道化師)や、韓国やインドに伝わるという綱渡りなども、この目で見たくなった。

 大島はサーカス研究者としても活躍している。ロシア革命時代のクラウンを描いた『サーカスと革命』のほか、明治末期に海を渡った日本人サーカス団の著書などもある。本書でも触れられている沢田豊だが、こんな日本人の人生があるのかとびっくりした。

 日本にもサーカス的な地区がある。毎年、大道芸フェスティバルが開催される野毛(神奈川県)だ。この地にスケールの大きな好人物がいて、日本、世界各国の芸人たちが集まり、盛り上がっている。柔軟性と自発性、大島が仕事を楽しんできた極意かもしれない。

※週刊ポスト2013年6月28日号

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