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根拠ない願望に数値目標を並べる政府の成長戦略を大前氏批判

 安倍晋三首相が口にする「成長戦略」では、具体的な数字を並べた威勢のいい内容が多く含まれている。しかし、それらの並べられた数字について、経営戦略を教えている大前研一氏が検証する。

 * * *
 6月上旬、成長戦略の第3弾が発表され、金融緩和と財政出動に続くアベノミクス「第3の矢」のメニューが出そろった。

 成長戦略は「農家の所得を10年間で倍増」「企業の設備投資を3年間で1割増の年間70兆円に」「インフラ輸出を2020年までに30兆円に拡大」といった威勢のいい数字が並んでいる。だが、経営戦略を教えている私がこの“事業計画”の可否を採点するなら、即、「落第」判定だ。具体的な根拠のない願望に数値目標を並べるのは、一番ダメな生徒だからである。

 たとえば「農家の所得を10年間で倍増」は、企業に喩えれば、半世紀にもわたって衰退し、従業員の平均年齢が60歳を超えている会社の売り上げを2倍にするということだ。それを具体的にどうやって実現するのか? 耕作放棄地を集約して貸し出すというが、それは至難の業である。なぜなら、真面目に農業をしていなくても、農民でいる限りは経費や相続税などの面で様々な“特典”があるからだ。

 さらに、日本と海外の平均経営農地面積を比べると雲泥の差がある。日本が1.8ヘクタールであるのに比べ、オーストラリアは3385ヘクタールと2000倍近く、アメリカは178,6ヘクタールで100倍、ヨーロッパでもイギリスが55.6ヘクタール、フランスが48.6ヘクタール、ドイツが43.7ヘクタールと数十倍なのだ。

 仮に日本の農地を集約して面積を現在の100倍にするとしても、単純計算では農家の数を100分の1に減らさなければならない。そんなことできるはずがないだろう。

「企業の設備投資を年間70兆円に」というのも、具体的にどうやって実現するのか、全く理解できない。今や日本企業の設備投資は大半が海外だ。人件費も法人税も高い国内で設備投資を増やす理由はない。

 そのほかにも「インターネットによる薬販売の原則解禁」「2020年までに健康診断の受診率を80%に」など、成長=GDPの増加につながるとは思えない政策のオンパレードだ。安倍首相は、この成長戦略によって「10年後に1人当たり国民総所得(GNI)を現在の水準から150万円以上増やす」という目標を掲げたが、実はこの発言こそ、安倍首相が経済というものを全く理解していないことを示す証左である。それは次回に説明する。

※週刊ポスト2013年7月5日号

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