国内

陸自精鋭は走りながら防弾チョッキない相手の腰打ち抜く腕前

 北朝鮮が日本での原発テロを計画し訓練まで行なっていたことが、脱北者の証言で判明したと報じられた。現代の戦争では、特殊部隊や工作員による攻撃が戦局を左右する。

 北朝鮮軍は近代兵器を持つ資金も技術もないため、弾道ミサイル以外はテロやゲリラ戦を展開する特殊部隊が主力となる。抗日パルチザンの系譜に連なる特殊部隊は朝鮮人民軍総参謀部の中に複数あり、総数は5万人とも10万人とも言われている。その一部がスパイやテロ活動を行なう工作員として暗躍してきた。

 仮に10人規模のテロリストが原発を乗っ取ったとしよう。1996年に韓国で北朝鮮の特殊部隊が起こした「江陵浸透事件」(詳細後述)で判明した彼らの装備は旧式の自動小銃AK47など貧弱なものが中心だった。このほか同事件ではM16も発見され、アメリカ製の武器も何らかのルートで流入していることが判明した。
 
 日本側はどうか。原発テロやテロリストによるハイジャックなどに際しては、陸自の「特殊作戦群」が出動する。特殊作戦群は米陸軍のデルタフォースを参考に創設された精鋭部隊で、編成は1個中隊100人×3の計300人。07年に設立された防衛大臣直轄の中央即応集団(CRF)隷下部隊となっている。彼らの装備について軍事フォトジャーナリストの笹川英夫氏が語る。

「特殊作戦群の装備は公開されていないが、自衛隊関係者の話を総合すると、M99対物ライフル(米バレット社製)やMP5などを装備しているようだ。M99は軽装甲車や壁を撃ち抜く威力がある。MP5はSATやSBUも使用する小型の機関銃で、狭い場所でも小回りが利く」

 装備では勝っている。その能力も、「彼らは建物内やハイジャックされた機内など狭い空間での戦闘を想定し、特殊なクロース・クォーター・バトル(CQB=近接戦闘)の訓練を行なっている。練度は高く、走りながらでも防弾チョッキで守られていない相手の腰を撃ち抜く技量を持つ。戦闘能力は相当高い」(自衛隊に詳しいフォトジャーナリストの菊池雅之氏)という。

 相手は10人。一見、武器も能力も劣る。だからといって、必ずしも勝てるわけではないのが特殊部隊戦の特徴だ。

 それを象徴するのが「江陵浸透事件」である。韓国の江原道江陵市で北朝鮮の特殊潜水艇が座礁し、乗員26人のうち15人が逃亡。軍と警察は1人を逮捕、銃撃戦の末に13人を射殺、1人が行方不明となった。装備で勝るはずの韓国側は17人(民間人4人を含む)が死亡している。衝撃的だったのは、現場近くの山中で潜水艇の艦長ら11人が青酸カリを服毒したうえ拳銃で頭を撃ち抜いて自決していたことだ。

 特殊部隊同士で想定される近接戦闘は人と人が対峙して殺し合う行為で、強い意志と冷酷さが必要になる。江陵浸透事件の集団自決は彼らの意志の強さを物語るエピソードだ。この時は工作任務の情報漏れを防ぐために自決したが、侵攻作戦ならばどうなるのか。極限状態では装備の差を精神力が超越することもあり得る。北朝鮮が死を覚悟で突っ込んでくれば特殊作戦群にも多大な被害が出るし、燃料プールで自爆されれば、重大な事故につながりかねない。

※SAPIO2013年7月号

関連キーワード

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト