スポーツ

桐光松井攻略したデータ野球 プロ出身監督ならさらに隆盛へ

 桐光学園・松井投手を攻略した横浜高校のデータ主義は、今後、元プロ野球選手の監督の誕生によって、より広がっていくかもしれない。フリーライター・神田憲行氏が考察する。

 * * *
 松井裕樹投手を擁する桐光学園が神奈川大会準々決勝で横浜高校に敗れた。翌日のスポーツメディアで話題になったのが、横浜の戦術分析である。松井投手の武器である縦に落ちるスライダーを見極めるために打席の後ろに立たせて、直球を狙わせる。牽制の癖を盗んで、盗塁を仕掛ける。桐光の各打者の打球方向を研究していたようで、現地で観戦していると、横浜の外野手の守備位置も打者によってかなり変えているのがわかった。抜けそうな当たりを二つほど好捕した。

 横浜の分析を担当するのが、前部長で今はコーチを務める小倉清一郎さんだ。小倉さんの詳細な分析メモは「小倉メモ」として、高校野球界では有名だ。私は「横浜vs.PL学園」という本を書いたとき、PLの各打者の打球方向、投手の癖を書いたメモを見せられて衝撃を受けた。

 もちろん分析して相手の弱点をあぶり出したところで、選手がそこを突けなければ意味が無い。だから練習も徹底して細かい。小倉さんから投手の一塁牽制の練習について記したノートを見せて貰ったが、足の使い方の図解入りでA4で3ページあった。

 そんな分析が重要なら、今はビデオも普及しているからすぐにでも真似できると考えるかもしれない。実際真似している学校はいくつもあるが、「観察力」が必要で、なかなか小倉さんの名人芸の域に達することは難しい。

 しかしそれも今後一変するかもしれない。元プロ野球選手の存在である。今年1月、日本学生野球協会と日本野球機構が話し合い、元プロ野球選手であっても、プロとアマが用意した座学研修を受ければアマの監督になれる途が開かれた。今まで引退したプロ野球選手が高校野球の監督になろうとすれば、教員免許を取得して2年間、教壇に立つことを求められていた。これからは高卒であっても、高校野球の監督になれるのである。

 プロ野球といえば、相手の弱点の突き、癖を盗む油断のならない世界である。

 実は桐光対横浜戦の前、元プロ野球選手が松井攻略について、

「自分ならバッターを打席の後ろに立たせて、スライダーを捨てて直球に絞らせる」

 と話していた。試合で横浜の各打者の打席位置をメモしていくと、一人をのぞいたメンバーが後ろに立っていたので「横浜も同じ考えなんだな」と思った。

 また彼からは松井投手の投球の癖も教わったが、これは私の観察力では確認できなかった。もっとも彼も「まだ確証は持てないけれど」と語っていた。

 プロ野球出身者が高校野球監督になれば、データ主義、分析力を活かした高校が今後続々と現れるだろう。そうなれば、高校生の必死さという高校野球本来の魅力とかけ離れてしまうと危惧する人がいるかもしれない。しかしそうだろうか。データと分析は「強者」だけのものとは限らない。プロ野球界随一のID野球を標榜する野村克也氏は、「ID野球こそ弱者の兵法」と言っている。引退したプロ野球選手が地元に帰り、母校の公立高校をID野球で鍛え上げて甲子園に出てくる……そんなロマンを私は期待する。

関連キーワード

関連記事

トピックス

”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
《クマ対策に出動しても「撃てない」自衛隊》唯一の可能性は凶暴化&大量出没した際の“超法規的措置”としての防御出動 「警察官がライフルで駆除」も始動へ
週刊ポスト
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン