ライフ

新大久保80歳女性「我々世代は生活保護を恥と感じ拒否も」

 7月21日に投開票された参議院選挙によって衆参のねじれが解消され、自民党政権がしばらく続きそうだ。アベノミクスと名付けた経済政策が賞賛されているが、福祉が切り捨てられるのではとの懸念もある。高齢化社会の最前線、限界集落となっている旧・戸山団地(東京・新大久保)を作家の山藤章一郎氏が尋ね、その窮状を報告する。

 * * *
 東京・JR〈新大久保駅〉から5分行く。〈百人町アパート〉旧・戸山団地に着く。元・映像プロデューサーの本庄さん・75歳の部屋に招じ入れられた。「孤独死ゼロ」をめざすNPO法人〈人と人をつなぐ会〉の仲間も部屋にいた。60平方メートルの3DK。クーラーはなく、奥に向かって長い間取りに敷きっぱなしの布団が見える。

「政府は医療費をあげて年金、生活保護費の減額をもくろんでます。それで合計5000億円浮く。〈国土強靭化〉コンクリートに何百兆円ですか。絶対におかしい。懸命に働いてきたがいまは無収入。そんな者から搾り取る。これがアベノミクスの正体です。自民が圧勝していよいよ、弱者受難の時代が加速するんです。

 この団地に来るまで人を見なかったでしょう。ゴーストタウンじゃないんですよ。1日朝から晩までテレビ見てちゃんと住んでる」

 昭和24年にできた先駆的団地のモデルとなったアパート群である。「憧れの団地だったんです」

 現在2324世帯、推定3500人が住む。空き家なし。ほぼ半分が年寄りひとり暮らし。「限界集落、姥捨て山」。メディアに過剰に取りあげられ、団地の心象は悪くなったという。氏は7万円の生活保護を受給している。同様の生活の人が数多く住む。

 ひとつの例──ガス代が高いから100円のボンベを使う。「これでひと月。焼きもんもできる。ごはんも炊ける」。おかずはコンビニやスーパーに行き、1000円で2、3日分を買う。食費は切り詰めて月に2、3万円。

〈老老介護〉の部屋も少なくない。90の夫のデイサービスにもカネがかかる。80の妻は、1日1食を抜く。水だけの時もある。

「われわれ世代は受給を恥と感じ、受けない人もいます。そしてガスも電気も止められ、食べるものをまったく買えない」

 世界3位の経済大国に貧困が拡大している。生活保護受給者はこの10年でほぼ倍増し、過去最高の215万人をかぞえる。内閣官房副長官・世耕弘成(せこう ひろしげ)らの強い具申もあって、安倍政権は〈生活保護費〉を削る。家族3人のモデル世帯で1か月1万6000円減る。

 一方、国は老人に対する互助基盤〈地域包括ケアシステム〉を提唱している。社会福祉協議会、民生委員、自治体などで、互いに助け合おうという概念を基にした政策である。しかし、本庄さんもかたわらにいた仲間の竹原さんも古瀬さんも強く憤慨する。

「孤独死が出たら地域の恥だからと、自分たちのことは自分たちでやれと国は弱者に負担をおしつけようとしているんです。〈公共事業〉のように積極的な救いの手を差し伸べようとはしない」

 そしてこのアパートでも14人もの孤独死の出た年があったという。遺体は3日目から腐る。夏はクーラー、冬は暖房。夏より冬、腐敗が進む。

「炬燵に入ってたら、溶けてなくなっちゃう。重油撒いたみたいにドロドロ。とにかく、3日以内に発見してあげたいんです」

※週刊ポスト2013年8月9日号

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン