国内

元陸軍中隊長 沖縄戦で瀕死の部下を介錯させたことを悔やむ

 終戦から68年が過ぎた。太平洋戦争を直接知る者は年々減り、当時の実態を証言できる者は限られてきた。今こそ元日本軍兵士たちの“肉声”を聞いてみよう。ここでは元陸軍海上挺身戦隊第三戦隊第三中隊長だった皆本義博氏(91)の証言を紹介する。

 * * *
〈皆本氏は大正11年生まれ。陸軍士官学校第57期。陸軍海上挺身戦隊第三戦隊第三中隊長(中尉)として、沖縄戦を経験。戦後は自衛隊に入隊、昭和52年、陸将補で退官。〉

 私は「○レ(実際は“レ”は“○”の中に入っている)」に乗る部隊にいました。○レは秘匿名称で、「連絡艇」の頭文字をとったものです。陸軍による海上特攻のための船です。

 全長5.6メートルの小さい木製ボートで、夜中、闇に紛れて密かに敵艦隊に接近。船の後部に250kgの爆雷を積んでいて、それで体当たりするという作戦です。一個戦隊は100隻。隊員は戦隊長以下、104名。

 昭和20年3月、我々は沖縄・慶良間諸島の渡嘉敷島で出撃の日を待っていました。周辺海域は米軍の艦船に囲まれている状況で、23~24日には敵艦載機の大規模な空襲を受けました。25日になると、慶良間海峡に米軍の巡洋艦と駆逐艦15隻が侵入、艦砲射撃を受けました。そして26日になると、思いがけない命令が下ったのです。

「作戦を中止し、特攻艇を沈めよ」 というものでした。国のために命を捧げる覚悟でしたので、悔し涙を流しながらも我々は作戦を断念しました。舟艇による特攻部隊は沖縄本島にも展開されていたため、ここで手の内を見せてしまってはまずいという上の判断でしょう。

 その後は悲惨でした。27日になると、朝6時頃から米軍の歩兵第77師団が上陸してきました。我々はとにかく島を守ろうと、海岸付近で次々に上陸してきた敵と戦ったのです。と言っても特攻部隊ですので、武器はほとんどありません。小銃、軍刀、手榴弾くらいしか持っていませんでした。陣地も構築していませんので、地べたに這いつくばって敵を迎え撃ちました。

 召集で来ていた兵なんか、たじろいでしまいます。それを見た下士官が、「おい貴様ら、俺はノモンハンの生き残りだ! 戦い方を教えてやる、 見てろ!」と叫んで手榴弾を投げようと立った瞬間、バンバンバンと3発の銃弾が襲い、私の目の前で彼は即死しました。戦闘は時間にしてみれば30分ほどだったと思いますが、ひどく長く感じました。この短い時間に、部隊の3分の1にあたる10名ほどが戦死しました。

 今まではごく限られた人にしか話さなかったことなのですが……この戦闘中に、部下の少尉が敵戦車の機銃を浴びて斃れました。即死かと思われましたが、かろうじて息はある。彼は常に、「敵の捕虜にはなりたくありません」と口にしていました。「生きて虜囚の辱めを受けず」というのは、当時の我々の率直な思いでした。「もしものことがあったら介錯してください」とも言われていました。私は別の部下に命じて、軍刀で彼を介錯させたのです。間もなく彼は絶命しました。

 この少尉は愛媛県の農業学校の先生でした。少尉も介錯した部下も、私よりもずいぶん年上の召集兵でした。もしこの時介錯させずに、彼が米軍の捕虜となったら、手厚い看護を受けて生き残ることができたかもしれない。愛媛の家族の元に戻って幸せな暮らしが送れたかもしれない……そんなことを戦後ずっと思い続けてきました。

●取材・構成/桜林美佐(ジャーナリスト)

※SAPIO2013年9月号

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