ライフ

ヘンリー塚本氏「ポルノには品があり物語がある。まさに性」

 日本の情感たっぷりに男と女の性を紡ぐ官能ポルノ映画「昭和エロスシリーズ」で知られるヘンリー塚本監督(70)はまた、創刊32年を経る熟年投稿雑誌「性生活報告」(発売元:サン出版)の愛読者でもある。次回作ではついに「性生活報告」の投稿を元にした映像化が実現するという。氏がこだわるのは、自身が生きてきた昭和という時代の男と女の性だった。(文/大木信景)

 * * *
 僕は昔から「性生活報告」を拝読していて、読者の方から寄せられる生々しい投稿に共感を覚えていました。コラボレーションが実現したときは嬉しかったですね。同誌の何に惹かれたかといえばやはり、そこに昭和のエロスを感じるからなんです。
 
 それは僕が常に掲げてきたテーマとも重なる。僕は、昭和という二度と戻らない時代のエロスを残そう、あの素晴らしい時代の情感が伝わる作品を撮り続けようとしている唯一人の監督だという自負がありますから。
 
 昭和という時代は……自分自身は昭和18年生まれ、まもなく終戦を迎える、東京大空襲直前の亀戸で生まれました。2歳から中学2年時まで千葉県に疎開していたのですが、そこでの出来事が僕の原風景です。戦後の混乱と貧困の中で、誰もが懸命に生きていた姿。それが僕の脳裏に昭和として焼き付いている。そこに常に見え隠れしていたのが“性”なんですね。 貧しかったが、皆たくましかった。それが非常に官能的なんですよ。“生”は“性”と不可分。性というものは人間が生きている限りなくなることはない。
 
 貧しさの中にこそ、豊穣な性がある。女性たちの服装もだらしなく、ちょっと屈むと乳房が見えました。パンティを穿いていない人も多く、洗濯などの日常の動作でヘアがチラっと見えることもある。最も脳裏に焼き付いているのは、赤ん坊におっぱいをやるところです。

 授乳のためなら人前でも平気でふくよかな乳房を見せる女性。子ども心に「見てはいけないものを見た」と思うと同時に、非常にドキドキしました。

 あるいは、どこの家も小さく、ひとつの蚊帳の中での生活でした。親戚の家に行ったときなど、おじさんとおばさんが性交している気配を感じたりしたものです。

 また、当時は皆貧しいため、新婚であっても避妊用のサックを使っていました。しかし今のようになんでもゴミとして出せたわけではないので、使用済みのサックを捨てられず、毎日溜まっては3か月程度で新聞紙にくるんで山や川に投棄する人も多かった。僕らガキが、それを拾いに行くわけですよ。それをどうするわけではないのですが、100余の情交の残滓を前に得も言われぬ興奮を覚えましたね。

 昭和のエロスは、こうした背徳感と生々しさが重要なモチーフとなっています。

 僕はこれまで、こうしたエロスを描いてきた。汗ばむ夏であったり、嫁と舅であったり、戦時下であったり、シチュエーションこそ違えどノスタルジックでリアルなことには変わりありません。世の中には、ロマンがなく、非常に短絡的で深みのない作品も多くある。特に若い人たちはそうしたAVを求めているということも知っている。それでも、僕は人の心に残るポルノ作品を作っていきたい。

 僕は自分の作品はAVではなくポルノだと思っているんですが、ポルノには品がある。物語がある。人間にとって性というものは必要なんだ、まさに人間の性なんだ、という熱い思いをもっと広い世代の人と分かち合いたいですね。

■ヘンリー塚本/1943年、東京亀戸生まれ。FAプロ創業者兼監督。1985年の設立から現在までに制作したタイトルは1900本以上。昭和エロスにこだわった作品に定評がある。男女のねちっこい「接吻」演出など、現在も唯一無二の世界観を表現し続けている。

※週刊ポスト2013年8月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

不倫が報じられた錦織圭、妻の観月あこ(Instagramより)
《錦織圭・モデル女性と不倫疑惑報道》反対を押し切って結婚した妻・観月あことの“最近の関係” 錦織は「産んでくれたお母さんに優しく接することを心がけましょう」発言も
NEWSポストセブン
殺人容疑にかけられている齋藤純容疑者。新たにわかった”猟奇的”犯行動機とは──(写真右:時事通信フォト)
〈何となくみんなに会うのが嫌だった〉頭蓋骨殺人・齋藤純容疑者の知られざる素顔と“おじいちゃんっ子だった”容疑者の祖父へ直撃取材「ああ、そのことですか……」
NEWSポストセブン
不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《美女モデルと不倫》妻・観月あこに「ブラックカード」を渡していた錦織圭が見せた“倹約不倫デート”「3000円のユニクロスウェットを着て駅前チェーン喫茶店で逢瀬」
NEWSポストセブン
お疲れのご様子の雅子さま(2025年、沖縄県那覇市。撮影/JMPA) 
雅子さまにささやかれる体調不安、沖縄訪問時にもお疲れの様子 愛子さまが“異変”を察知し、とっさに助け舟を出される場面も
女性セブン
新キャストとして登場して存在感を放つ妻夫木聡(時事通信フォト)
『あんぱん』で朝ドラ初出演・妻夫木聡は今田美桜の“兄貴分” 宝くじCMから始まった絆、プライベートで食事も
週刊ポスト
不倫が報じられた錦織圭、妻の元モデル・観月あこ(時事通信フォト/Instagramより)
《結婚写真を残しながら》錦織圭の不倫報道、猛反対された元モデル妻「観月あこ」との“苦難の6年交際”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《永野芽郁に新展開》二人三脚の“イケメンマネージャー”が不倫疑惑騒動のなかで退所していた…ショックの永野は「海外でリフレッシュ」も“犯人探し”に着手
NEWSポストセブン
“親友”との断絶が報じられた浅田真央(2019年)
《村上佳菜子と“断絶”報道》「親友といえど“損切り”した」と関係者…浅田真央がアイスショー『BEYOND』にかけた“熱い思い”と“過酷な舞台裏”
NEWSポストセブン
「松井監督」が意外なほど早く実現する可能性が浮上
【長嶋茂雄さんとの約束が果たされる日】「巨人・松井秀喜監督」早期実現の可能性 渡邉恒雄氏逝去、背番号55が空席…整いつつある状況
週刊ポスト
2人の間にはあるトラブルが起きていた
《浅田真央と村上佳菜子が断絶状態か》「ここまで色んな事があった」「人の悪口なんて絶対言わない」恒例の“誕生日ツーショット”が消えた日…インスタに残された意味深投稿
NEWSポストセブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン