「フランスでは、“閉経したら女じゃなくなる”なんて考えはありません。フランス文学者の河盛好蔵先生は、島崎藤村のフランス滞在を研究されていましたが、下宿先のかなり年上の女将との関係を最後まで疑っていました。『フランス女はいくつになっても女ですからね』と」
こう語るのは、フランス文学者で明治大学国際日本学部教授の鹿島茂さんだ。
「欧米−−特にフランスやアングロサクソン系の国家では、長じた子供は親から完全に独立しなくてはならず、どうすれば社会の中で生活していけるかを徹底的に考えるようになります。成熟しなければ、生きていけない環境なのです」(以下「」内、鹿島さん)
一方、親に養われた子がやがて親の面倒をみるという“直系家族制度”が残る日本では、“家族は守ってくれる”という甘えが存在し、成熟ができないのだと鹿島さんはいう。
鹿島さんによれば、人間は3つの行動原理でしか行動しない。【1】面倒くさいことが嫌い。【2】自分のやりたいことをやる。【3】人に褒められたい。個人の行動原理は、この3つに集約されるという。
「しかし当然、誰もがこれを実践しようとすると社会が立ち行かなくなる。どこかで“共同体の原理”にぶつかってしまう。ですから、個人と共同体の原理の境目をうまくとらえ、自分の頭で考えて行動することこそが、人間の成熟だといえます。
日本ではバイアグラがもてはやされ、男性誌は“死ぬまでセックス”なんて特集をしているけれど、これらは“3つの行動原理”の最たるもの。そもそも自分だけが楽しめばいいということで、幼稚です」
他方、女性セブンが20~50代の既婚女性に行ったアンケートでは、40代既婚女性の91%が“かわいいと言われるとうれしい”と答えた。いつまでも若くかわいくありたい、という日本女性の多くにとって、加齢やそれに伴う更年期は恐怖でしかない。死ぬまでセックスしたいとばかり願う男たちと、加齢を恐れかわいくありたいと願う女たちの間に、フランスのような大人の恋愛が成立することは難しいだろう。
ミシェル・ファイファー(55才)が主演した2009年の映画『わたしの可愛い人 シェリ』は、“ココット”と呼ばれる高級娼婦がもてはやされたベル・エポックのパリが描かれている。19才の若い男性に性愛の手ほどきをした元ココット(ミシェル)は、本気で愛してしまったその男と毅然と別れようとする。
「ここには“文化はセックスを介在しないと受け継がれない”というフランスの思想があります。容色は加齢とともに衰えるもの。その“価値の減少”に対抗するには、文化、つまりは教養しかない。
高級娼婦の自伝を読むと、“私が生き残れたのは文化のおかげ”と書かれている。ここでいう教養は、カルチャーセンターで身につくものではなく、セックスを含む人間関係の中で学んでいくものなのです」
※女性セブン2013年9月5日号