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増税の必要性煽ってきた全国紙が最近慎重論を唱え出した理由

 安倍政権の暴走を大メディアが許し、加速させている側面は見逃せない。新聞・テレビは国家権力をチェックしてブレーキをかけるどころか、権力にすり寄り、国民をないがしろにして自らの既得権を守ろうと必死だ。

 その最たる例が消費増税だ。昨年、消費増税関連法が自・公・民の3党合意によって成立した。衆院での採決を前に3党が法案の修正協議に入り、増税反対派の議員が異論を唱えていた時、大新聞は社説で〈消費増税反対派 マニフェストの呪縛を解け〉(読売新聞、2012年6月19日付)、〈小沢元代表 矛盾だらけの増税反対〉(朝日新聞、同6月19日付)と「増税すべし」の大合唱となった。

 必要な歳出の改革より、「まずは負担を庶民に強いることから」という政府、財務省のやり方に同調したのだ。それだけではない。増税を強力に後押ししながら、新聞各紙は「自分たちは例外にしてほしい」と主張してきた。元朝日新聞編集委員のジャーナリスト・落合博実氏は古巣の報道機関の使命を見失った権力迎合を厳しく批判する。

「朝日、毎日、読売の朝夕刊セットの月極め購読料は現在3925円。消費税率8%で4037円、10%では4112円になる。各紙の幹部は『4000円の大台を超えると新聞離れに拍車がかかる』と恐れている。そこで欧州で導入されている軽減税率を適用してもらおうと主張しはじめた。

 社説で消費増税を煽りながら、日本新聞協会などの業界団体が『知識への課税強化反対』と軽減税率を求めるという奇怪な動きをしてきた。読者である国民には負担増を求めておいて、自分たちだけは増税による不利益を免れようという身勝手な話です」

 大新聞の増税礼賛もあって、消費税は来年4月に8%に、再来年10月に10%に引き上げられることが確実な情勢だ。

 ところが安倍政権発足後、新聞業界のアテは外れた。今年1月末、自公の与党税制協議では軽減税率について「10%への増税時に導入を目指す」という曖昧な表現しかされなかった。各紙がその直前に展開していた〈軽減税率「消費税8%」で導入すべきだ〉(読売新聞社説、1月19日付)、〈軽減税率 8%段階の導入目指せ〉(毎日新聞社説、1月17日付)といったキャンペーンは空振りに終わった。

 その後も、〈軽減税率「導入を」73%〉(読売新聞、8月11日付)などとお得意の世論調査を使った印象操作記事で〝陳情〟を続けてきたが、前出・落合氏はここに来て各紙の論調に変化が出てきたと指摘する。

「これまで増税を異様に煽ってきた全国紙が最近、来年4月の8%への増税に慎重論を唱えだした。政権内部から8%への増税に懸念を示す声が出たのをいいことにそれを煽っている。増税が先送りされれば、再来年の税率10%への引き上げ時に軽減税率を適用してもらうべく勝負をかけ、不利益を一切受けずに済ませようという考えではないか」

 今年4~6月期の実質GDP成長率が発表されると、読売新聞は8月13日の社説で〈2.6%成長 消費税増税に耐えられる体力か〉と、手のひらを返して増税に警鐘を鳴らした。1997年に税率を5%に上げたことが〈長期デフレの発端となったことを忘れてはならない〉とクギを刺す。彼らの論理は1年前の消費増税法案採決の時に彼ら自身が口を極めて批判した増税反対派が主張してきたことそのものだ。

「慎重論にシフトしはじめたのは、朝日も同様です。社説で消費増税の環境整備に注文をつけ、一般記事では消費税増税による家計の負担増に触れるなど、消費税増税を叫び続けた時の熱っぽさは後退しています」(前出・落合氏)

※SAPIO2013年10月号

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