スポーツ

プロ野球唯一2度の逆転サヨナラ満塁HR打った男の天国と地獄

 プロ野球の歴史をひもとくと、忘れられないサヨナラ弾の記録がいくつもある。そのなかで唯一、「逆転サヨナラ満塁弾」を2度打った男がいる。ただひとりの男、広野功氏が、二度の逆転サヨナラ満塁弾を振り返った。

 * * *
 自分でいうのも何ですが、私の野球人生は本当にドラマチックだったと思います。常に天国と地獄の繰り返しでした。

 1966年に入団した中日ではいきなり躓(つまず)きました。1年目のオープン戦で右肩を脱臼。医師からは「野球は無理だ」と言われるほどの大けがでした。目の前が真っ暗になって、郷里の母親に辞めたいと告げると、「腕がちぎれるまで帰って来るな」と怒鳴られた。今考えるとこの言葉はありがたかったですね。大きな励みになってトレーニングを続けて、なんとか5月には一軍に昇格できましたから。

 迎えた8月2日の巨人戦。3-5で迎えた9回裏の攻撃、2死一塁から連打で満塁となり、私の打席。先発・城之内邦雄さんのリリーフに出てきたのは、ドラフトの同期、高卒ルーキーながら開幕13連勝していた堀内恒夫でした。

 堀内とは因縁があるんです。新人王争いのライバルとしてある企画で対談したんですが、生意気な発言に本当に腹が立った。絶対に負けないと思っていたのですが、初対戦は4打数0安打。その後は打ちたい一心で、10グラム軽い「堀内用バット」まで用意しました。

 その日の堀内のブルペンを見ていると、カーブの制球がイマイチでした。実際に対戦してみると、やはりカーブがスッポ抜ける。これはストレートしかないと読んで、フルスイングすると、打球はセンター右に飛び込む逆転サヨナラ満塁本塁打となった。もう宙に浮かぶような思いで走り、本当にベースを踏んだか不安になったくらいです。

 2本目は1971年5月20日、今度は1本目を打った相手である巨人の選手として打ちました。移籍時、川上監督から「代打で使う」といわれていましたが、大事な初打席で金縛りにあったように1球も振れず、三球三振。それからは代打の場面でも、自分には声がかからない日が続いていました。

 それがこのヤクルト戦では、4-5とリードされた9回裏満塁で声がかかった。左の代打を使い果たして、私しか残っていなかったんです。

 相手投手は右の会田照夫。既に失点していたし、投手交代でもおかしくない。そうなると代打の代打で打てなかったが、前日の三球三振のイメージからか続投してきた。三球三振が役に立ったんです(笑い)。川上監督には「お前、絶対バットを振れよ」と凄まれましたが、低めをすくい上げると、打球はライトスタンドに突き刺さりました。

 ただ、こうした奇跡の後には必ず落とし穴が待っていた。1本目も2本目も、打った直後に故障。まさに天国と地獄でしたね。

 1974年に中日に復帰し、この年限りでユニフォームを脱ぎますが、そのきっかけになったのは3度目の逆転サヨナラ満塁本塁打のチャンスだったんです。巨人戦、9回裏満塁で投手堀内というあの時と同じ場面が回ってきた。私は与那嶺要監督に直訴して代打で出ましたが、ライトライナーに倒れた。もう潮時だなと思い、その場で「二軍へ行きます」と伝え、自分から現役に幕を引きました。

●広野功/1943年生まれ。慶応大時代は長嶋茂雄の持つ六大学の本塁打記録(8本)に並ぶ。ドラフト3位で中日に入団。1968年西鉄、1971年巨人、1974年に中日に移籍し同年引退。

※週刊ポスト2013年10月11日号

関連記事

トピックス

大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
「What's up? Coachella!」約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了(写真/GettyImages)
Number_iが世界最大級の野外フェス「コーチェラ」で海外初公演を実現 約7分間、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
天皇皇后両陛下、震災後2度目の石川県ご訪問 被災者に寄り添う温かいまなざしに涙を浮かべる住民も
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン