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出所の許永中氏「日本でやることたくさんある」と決意を語る

 9月30日、韓国籍の実業家・許永中(きょえいちゅう・66)氏が韓国のソウル南部矯導所を出所した。「闇の帝王」「裏社会の代理人」「浪速の怪人」など様々な異名をほしいままにした大物仕事師出所のニュースは日韓の政財界に大きな波紋を広げている。長期の服役を終えたいま、許氏の胸に去来するのはどのような思いなのか。出所直前の肉声をスクープ公開する。

「1年も2年も韓国におるわけにはいかんよ。あと半年で十分や。日本でやらなあかんことが、たくさんあるんやから。じっとしておられんよ」

──許氏は獄中で、関係者にそう語っていたという。

 許氏は経済事件にからみ日本で13年6か月の実刑判決を受け、日本の刑務所に服役していたが、昨年12月に、日韓が締結する受刑者移送条約を利用し、許氏自身の希望で韓国に移送され、満期までちょうど1年を残した9月末日、仮出所したのである。

 とはいえ、許氏が日本に戻るためのハードルは決して低くはない。在日韓国人2世である許氏は、日本の特別永住者の資格を持っていたが、「受刑者移送による出国は、再入国許可を取らずに出国していると判断され、特別永住者の資格を喪失する」(法務省担当者)という。また、許氏が受けた1年以上の実刑判決は入管法上、日本への上陸拒否事由に該当するため、訪日は容易ではない。

「本来、日本に家族がいる人の場合は人道上の理由から入国が許可されるケースが多い。だが、許氏の仮出所を受けて法務省内で検討した結果、“世間を騒がせた犯罪ということもあり、再入国の許可を出すことは難しい”という結論を出したようだ」(法務省関係者)

 日本に戻れないかもしれない──。なのに、なぜ許氏は韓国への移送を希望したのか。

「韓国政財界に影響力のある許さんは、早期の恩赦を期待したのではないか」(前出の知人)という向きもあったが、韓国では満期の1年前の仮出所というのは、むしろ遅いほうだ。ごく近い関係者には、移送の理由をこう語っていたという。

「私の母親は若い時に韓国から日本に渡ってきたんやけど、もうかなりの年なんや。体調も思わしくない。母親には本当に苦労をかけてきたから、生まれ育った祖国に連れて帰ってきてあげたいんや」

 許氏は逮捕前、海上で日韓を結ぶ「大阪国際フェリー」の設立オーナーになるなど両国でビジネスを展開したが、韓国語はほとんど話せなかった。だが、獄中で勉強してほぼマスターしたという。それも、老いた母親を自分が祖国に連れて帰りたいという思いからだった。

 では、許氏が出所直前に語った「日本でやらなあかんこと」とはなにか。それは、石橋産業事件の判決の遺恨を晴らすことである。この事件は許氏が東京の石油商社・石橋産業から180億円の手形を騙し取ったというものだ。2000年に詐欺容疑で逮捕され、2008年2月に懲役6年の刑が確定する。その判決が後に、許氏にとって大きな遺恨となるのだ。

「詐欺罪なんて絶対に成り立つわけがない。冤罪や。あの判決を受けた時は絶望して、死のうとも考えた。だが、今はもう裁判をやり直して無罪を証明するための『再審請求』をする準備を進めている。もう一度、日本で話をつけなあかん」

 許氏は関係者にそう語ったという。実際、石橋産業事件の捜査や判決の不自然さを指摘する声は多い。事件に関わった当事者のひとりの見方はこうだ。

「当時、石橋産業側は傘下の建設会社を同業他社と合併させるという許氏の事業プランに合意して協定書まで交わし、許氏に180億円の手形を出した。また、許氏には当時、銀行から同額の融資が見込めたので、返済能力もあった。騙す方も騙される方も、その意図がなかったのだから、詐欺罪が成立するのは不可解だ。

 では、なぜ事件になったのか。それは許氏のビジネスパートナーで、裏社会の大物の代理人として動いていたヤメ検弁護士の田中森一氏を検挙することが、当時の検察にとって至上命題だったからだ。だから、わざわざ田中氏が関与した無理筋の手形詐欺を事件にした。いうなれば、許氏は巻き添えを喰った形だ」

 当時の検察がいかに恣意的なシナリオ捜査をしていたかは、2010年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改竄事件でも明らかだ。石橋産業事件がそれに該当するかはわからないが、許氏は長期の服役の間も無罪への執念を絶やすことなく、再審請求の準備を進めてきた。

 また、許氏は獄中で自身に関する報道にも疑問を投げかけていたという。

「いってもやってもおらんことが、さも本当のことのように書かれている。絶対に許せん奴もいる」

 なぜそこまでの怒りを持つのか。前出の許氏の知人は「許さんはプライドが高い。たとえ懲役が終わったとしても、詐欺というスケールの小さな犯罪をやったというレッテルや、自分の足跡を矮小化するような報道は絶対に認められないのだろう」という。

※週刊ポスト2013年10月18日号

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