スポーツ

中日落合GM「座席はいつも後ろの右端か左端」俺流映画鑑賞術

 来期の中日ドラゴンズのGMに前監督の落合博満氏が就任することになった。「変わり者」と評されることが多い同氏だが、その思考を理解するのに役立つ意外な一冊をフリーライターの神田憲行氏が紹介する。

 * * *
 来期の中日ドラゴンズが落合博満GM、谷繁元信選手兼任監督でスタートすることが発表された。中日グループの中には落合氏のマスコミ対応などに不満を持つ「反落合派」が存在すると言われており、2年前、オーナーの圧倒的な信任を持ち監督としても高い業績を積み上げていた同氏の追放に成功した。しかし代わりのタマ(監督)を用意できていなかったとは、ツメの甘いクーデターだったと言わざるを得ない。

 来期、ドラゴンズにGMとしてのカムバックした落合氏がどういう活動をするのか。落合氏の思考の端緒を知る手がかりとなる本を紹介したい。

 今年8月に出版された「戦士の休息」(岩波書店)。お堅い岩波書店からプロ野球人の本が出たことも珍しいが、内容も落合氏が「野球より長い付き合い」という映画に関するエッセイ集である。元々は落合氏が浪人していた2012年から、スタジオジブリが編集発行している月刊冊子「熱風」に連載したものを下地にしている。

 一読して落合氏が見ている映画の量、知識がそこらへんの「映画好き」を通り越しているのはわかるのが、垣間見えるのは、落合氏のこだわりの強い、理屈っぽい、周到な性格だ。

 まず映画館での鑑賞は、座席は後ろの右か左かのいちばん端に座る。

〈中央に座ってしまうと、スクリーン全体を見るのに視線を左右に動かさなければならない。左右どこかの端なら、そこを起点に一方向に視線を動かせばいい〉

 映画を本格的に見るようになったのは高校時代だった。野球部の先輩の鉄拳制裁に嫌気がさし、大会前になると部長から呼び出されて試合に出て、大会が終わると退部する。それを7、8回繰り返したという。練習をサボって見たのが映画だった。そこで出会ったのがオードリー・ヘップバーン。最初は彼女の美しさだけをスクリーンで追い、そのあと2、3回通って字幕を見て、物語を堪能する。同じ映画を何度も鑑賞するのが「俺流」映画鑑賞術なのだ。

〈しっかりと理解し、納得してから次に進む。のちに野球という仕事を極めようとする際に用いた方法論は、(中略)高校時代の映画の味わい方が土台になったと言っても間違いではないだろう〉

 繰り返してみるのは好きな映画だけではない。落合氏は映画鑑賞中に居眠りしてしまったことが1度だけあるそうだ。その映画「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」も「なぜ居眠りしてしまったのか」を知りたくて、わざわざまた見に行くのである。普通の人は寝たら「つまらない映画」で切って捨てるだろう。彼はそんなことをしない。

 野球についても、「打撃の基本はセンター返し」という「常識」に疑問を持つ。なぜなら誰もその理由を答えられなかったからだ。そこから落合氏は球場の形状から、その理屈を作り上げるのである。

 谷繁内閣には、森繁和氏のヘッドコーチ就任が検討されているという。森氏は落合氏の腹心の部下だった。映画でたとえれば巨匠監督が長く自分をサポートしてくれたベテランの助監督を、新人監督の脇に付けたようなものだろうか。

 映画の監督も野球の監督も「黒子」と捉える落合氏は「落合竜」という自分が前面に出された表現に違和感があったそうで、「俺流」と表現された采配も、

〈過去の監督が行ったことを検証し、自分がいいと思ったことを採り入れただけ〉

 という。監督が黒衣ならGMはもっと黒衣。しかも過去の例を検証しようにも、日本のGMの歴史は浅い。しかし納得しないと次に進めない彼の性格からして、胸に期するものはあるはず。初めて「俺流GM」が見られるかも知れない。

 最後に本書によると、落合氏が見た生涯ベスト1の映画は「チキ・チキ・バン・バン」だそうだ。

関連キーワード

トピックス

各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン
理論派として評価されていた桑田真澄二軍監督
《巨人・桑田真澄二軍監督“追放”のなぜ》阿部監督ラストイヤーに“次期監督候補”が退団する「複雑なチーム内力学」 ポスト阿部候補は原辰徳氏、高橋由伸氏、松井秀喜氏の3人に絞られる
週刊ポスト
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“最もクレイジーな乱倫パーティー”を予告した金髪美女インフルエンサー(26)が「卒業旅行中の18歳以上の青少年」を狙いオーストラリアに再上陸か
NEWSポストセブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン
メキシコの有名美女インフルエンサーが殺人などの罪で起訴された(Instagramより)
《麻薬カルテルの縄張り争いで婚約者を銃殺か》メキシコの有名美女インフルエンサーを米当局が第一級殺人などの罪で起訴、事件現場で「迷彩服を着て何発も発砲し…」
NEWSポストセブン
「手話のまち 東京国際ろう芸術祭」に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年11月6日、撮影/JMPA)
「耳の先まで美しい」佳子さま、アースカラーのブラウンジャケットにブルーのワンピ 耳に光るのは「金継ぎ」のイヤリング
NEWSポストセブン
逮捕された鈴木沙月容疑者
「もうげんかい、ごめんね弱くて」生後3か月の娘を浴槽内でメッタ刺し…“車椅子インフルエンサー”(28)犯行自白2時間前のインスタ投稿「もうSNSは続けることはないかな」
NEWSポストセブン
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン