抗結核薬の登場で撲滅されたイメージがある結核だが、いまだに毎年2万人以上の新規患者が報告されている。若い頃結核菌に感染し、高齢になり、免疫低下により発病する例が多い。発見が遅れた場合、周囲に感染させ、集団発生の原因となる。近年、薬の不規則な内服などで多剤耐性菌も登場し、治療が難しくなっている。
日本の10万人あたりの結核罹患率は17.7人(2011年)で、アメリカの4.3倍、カナダの3.8倍、フランスの1.9倍と、先進国ではずば抜けて高い。1940年以降、有効な抗結核薬が登場し、人口10万人あたりの新規登録結核患者数は減少していたが、1999年に再上昇した。
原因の一つは人口の高齢化がある。若い時に結核菌に感染しても発病しなかったり、病巣が小さいうちに治った人が高齢になり、合併症などで免疫力が低下して発病する内因性再燃例が多い。1940年代生まれでは約50%が結核菌感染者と推測されている。
結核高度専門施設である複十字病院呼吸器内科診療主幹の佐々木結花医師に聞いた。
「感染のリンクが続いているのが問題です。空気感染で蔓延し、潜伏期間が非常に長く、感染したことに気がつかない人が少なくありません。風邪など他の呼吸器系の病気と症状が似ているため、患者さんの受診が遅れたり、診断する先生方が迷われることもあります。2週間以上、咳や発熱が続く場合は、呼吸器系専門外来のある病院で検査をすることが大切です」
成人の結核感染の検査は、血液検査でインターフェロンγ遊離試験(IGRA)を行なう。肺結核の発病は、胸部X線による画像診断と、痰などの菌の検出で確定診断を行なう。結核菌は気道から菌が侵入するが、肺以外にもリンパ節や骨などの全身の臓器に発病することもある。
痰を顕微鏡で検査する塗抹検査で結核菌が陽性なら、他者に感染させる危険性が高く入院となる。標準治療は、薬剤に抵抗性のない菌であれば、イソニアジト(INH)、リファンピシン(RFP)とピラジナミト(PZA)、エタンブトール(EB)ないしはストレプトマイシン(SM)の4剤を初期2か月、その後INH、RFPの2剤を4~7か月内服する、合計6~9か月の治療となる。
「通常、毎日欠かさず薬を飲めば、標準治療期間で治癒します。しかし副作用や他の合併症、年齢によっては、標準治療ができず、治療期間が長くなることがあります。患者さんの判断で薬を内服しないと、薬の効かない耐性菌ができてしまうことがあります。INH、RFPの効かない多剤耐性結核菌の場合、治療が難しく手術も必要となります」(佐々木医師)
結核は感染から2年以内の発病率が最も高く10~20%である。感染しても発病していない人に対しては、INHなど抗菌剤1剤を6~9か月服用する治療を行なう。その際、飲み忘れに注意する。
近年経済のグローバル化で、世界各国に進出する日本企業は多い。各国で結核罹患率は異なり、日本人が他国で発病し現地で入院したり、他国で感染を受け帰国して発病する場合もある。世界三大感染症の一つである結核は、いまだ日本でも大きな脅威であることを忘れてはならない。
(取材・構成/岩城レイ子)
※週刊ポスト2013年11月1日号