創立60周年を記念した『劇団四季ソング&ダンス60 ようこそ劇場へ』が上演中だ(東京・四季劇場[秋]にて)。四季のレパートリーのなかでは珍しい、ショー形式のステージ。出演俳優たちは“作品のキャラクター”としてではなく、“自分自身”として歌い踊る。その舞台の魅力の源には、劇団四季ファンのみならずとも名ダンサーとして記憶している“彼”がいる。
ポンチョのような衣裳を身にまとった俳優たちが『サウンド・オブ・ミュージック』の『すべての山へ登れ』をしっとりと歌い上げ、『ライオンキング』の『朝の報告』はスーツ姿でサラリーマンふうに。おなじみのミュージカルを“こんなふうにアレンジしたのか!”と驚くと同時に、ダンスナンバー『ヴァリエーションズ』の情熱的なダンス、俳優たちが演奏するガムランとバリ舞踊にも息をのむ。
本作の構成・振付・演出をしているのが、加藤敬二。全7作となった“ソング&ダンス”シリーズは、彼なくしては語れない。
加藤の舞台を観た誰もが、このダンサーだけは生まれつき特別なのだ、と思う。脚はぐわ~んとしなるように上がる。ジャンプすると上空でしばらく静止しているように見える…。
「手品師ってお客さまを驚かせるのが商売で、悪くいえば人をだますことが仕事。でもお客さまがわぁ~っとなれば、子供心にも嬉しかったし、父のことが誇らしかった。だから、ぼくも人を喜ばせたり驚かせたりが大好きなんですよ」と加藤は言う。
他のダンサーと違いがあるとすれば、驚かせたいという意識が強いことかもしれない、と。
「ジャンプにしてもターンにしても、人に驚かれるものをと、人一倍稽古してましたね。例えば、片足を耳まで上げてから一気に下げる“バットマンタンジュ”という動作。ただつま先を上げてもお客さまは驚かない。足全体が耳の後ろまでしなやかに曲がり、下りるときはひゅんって音がする強さがあって、初めて驚かれるんです。
まさに竹がしなるイメージ。これができたらかっこいいな、と思ってから、朝から晩までそればっかりやってた。食堂だろうがお風呂だろうが、寝ていても布団で脚をぐーっと伸ばして。こうなったらすごいだろうな、奇跡に見えるだろうなとイメージする。最初は不可能なんですよ。それを毎日毎日訓練する。3年してできるようになりました。修行みたい。でも嬉しい修行でしたね」(加藤)
ジャンプの開脚も「180度開くだけではイヤで、脚がそれ以上開いて飛んで、上で一瞬止まって見えるようにしました」とにこにこする。加藤は“才能”が特別なのではない。“修行”が特別だったのだ。
※女性セブン2013年11月21日号