壁面には、そんな彼らと店の距離の近さを如実にあらわすものが飾られ、貼られている。
手作りウクレレ、た・ち・の・み・やを頭文字にした軽妙洒脱な言葉遊び、尺上(しゃっかみ。30cmを超える)のチヌ(黒鯛)の魚拓…。そして、極めつけは、全国各地のマラソン大会のナンバーカードが、博士ならぬ酔っぱらいが愛した数式のごとく、べたべた。
「みんな勝手にやってるんですよ。自分の家とでも思っているんでしょ。ナンバーカードがうちの入店資格なんてことはないんだけれど、ランナーは多いですね。」
それらはまったく統一性などないのに、巧まずして品良きインテリアとなり、視覚からのうまい肴効果をあげている。
「どこでも飲める酒だし、肴だって手作りが中心だけど、おでん、牛すじ煮込み、焼き魚といった普通のものでしょ。それをここで飲んで食ってとなると、うまいんですよねえ」(40代、電器系)
「(池)ぶくろの梟の胃袋の中」なんて、酔わなければ出ないおやじギャグも聴こえてくるが、壁際の常連客からこんな声がかけられた。
「実は梟の胎内かもしれないですよ。そこでぼくは焼酎ハイボールを飲んでます。焼酎が前に出すぎていないのがいい。そして、甘くもない。甘いと、あーあ違うんだよなぁとがっくりくるけど、これは気に入ってるんです。この季節は、冷やさなくてもいけますしね」(30代、証券系)
梟は夜行性。サラリーマンたちが不苦労気分で羽を休めて飲める店は、夜の池袋で、9時半までやっている。