ビジネス

「ブラック企業」存在しない独の二元的職業訓練に世界が注目

 日本とドイツはともに第二次世界大戦の敗戦国であり、大きく経済復興したため比較されてきた。似ていると言われる日独だが、際立って異なる性質もある。まったく異質な両国の教育制度について、大前研一氏が解説する。

 * * *
 ドイツには、最近世界が注目している「デュアルシステム」がある。これは企業での実践訓練を3分の2、パートタイムの職業学校での学習を3分の1、並行して2~3年半行なう二元的(デュアル)職業訓練だ。

 1週間に平日が5日間あるとすると、自分が選んだ職種について一定のカリキュラムの下で3日間は企業で研修を、2日間は学校で講義を受ける。義務教育(15歳まで)を修了した若者や「ギムナジウム」(7年制または9年制の普通中等学校)を修了して大学入学資格(アビトゥーア)を取得した若者が対象で、前者の場合は18歳になるまでに少なくとも2年間はプロに実地で教わりながら腕を磨くわけだ。

 デュアルシステムには、自動車メカトロニクス工、産業機械工、電気設備工、塗装工などのブルーカラーだけでなく、情報技術者、ホテル専門職、事務系商業職などのホワイトカラーも含めた348もの公認訓練職種があり、それを国・州・企業・労働組合が合わさった公的機関「BiBB(職業教育訓練研究機構)」がきめ細かく運営している。

 ドイツでは子供たちの将来の進路について、小学校4年生の段階から能力や適性などを観察しながら指導する。子供たちは、自分はギムナジウムに進んで大学に行くのか、それともデュアルシステムやフルタイムの職業訓練校に進んで手に職をつけるのかということを10歳くらいから考え始め、12歳の時点でいずれかを選択するのだ。

 最も人気が高いのはデュアルシステムで、ギムナジウムに進む人との比率は7対3である(同様の教育制度になっているスイスの場合は8対2)。どちらのコースを選んでも生涯給は大きくは変わらないという状況になっているが、実際には、大学進学者よりも18歳で手に職をつけた人のほうが安定した生活を送ることができるようだ。

 日本の場合、厚生労働省の発表によると、2010年3月に卒業した新規学卒者の3年以内の離職率が、大卒者31%、高卒者39.2%、中卒者62.1%に達している。しかしドイツでは、デュアルシステムがあるため、就職後すぐに会社を辞めるというのはごく少数だ。

 前述したように10歳の頃から将来の進路を学校が指導して子供たちも自分で考え、その後2~3年半にわたって企業で研修しているからだ(最終的に6割の若者が研修した会社に就職)。

 つまり若者たちと企業の“お見合い期間”が長いので、日本のような「雇用のミスマッチ」や「ブラック企業」などというものは存在しないのである。また、このシステムがあることでドイツやスイスでは中小企業も優秀な人材を確保できていることは間違いない。

※週刊ポスト2013年12月20・27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン