国内

閣議決定された「国家安全保障戦略」の根幹は積極的平和主義

 安倍晋三政権が昨年末に閣議決定した「国家安全保障戦略」は、今後10年程度にわたって日本の行く末を決める重要文書だ。

 どれくらい重要であるかは、逆説的だが、新聞によって賛否が真っ二つに分かれたことでもあきらかだろう。たとえば、朝日新聞は「平和主義を取り違えるな」(2013年12月18日付け社説)と批判した。かと思えば、読売新聞は「日本守り抜く体制を構築せよ」(同)と支持している。

 報道は特定秘密保護法をめぐっても、かつてなくヒートアップした。それと比べても、実は国家安保戦略のほうがはるかに重要である。秘密法は国家安保戦略を実効あらしめるためのパーツにすぎない。肝心の幹は戦略なのだ。

 戦略のキーワードは「積極的平和主義」という考え方である。この言葉は初めて登場したかのような印象があるが、外交や安全保障の専門家の間では、これまでも熱心に議論されてきた。

 積極的平和主義とは昨日今日になって突然、出てきた概念ではない。兼原によれば、始まりは1990年の湾岸戦争からだ。

 イラクのクウェート侵攻を受けて日本は自衛隊を多国籍軍に派遣しようとしたが法案が通らず、代わりに1兆円を超える資金援助をした。だが、国際社会では評価されなかった。その後、モザンビーク、ルワンダ、ゴラン高原、カンボジア、東ティモールなどの国連PKOに参加する。

 北朝鮮の核危機を経て、米軍の後方支援をする周辺事態法ができる。2001年の9.11テロ以降は海上自衛隊のインド洋派遣と陸上自衛隊のイラク派遣、アデン湾での海賊対策と続いた。

 こうした経験を経て、日本は何を学んだのか。単純な専守防衛に徹しているだけでは、世界の平和と安定に貢献できず、ひるがえって日本の平和も維持できない。むしろ平和を作り出していく作業に日本も積極的に関わっていくべきだ。それが積極的平和主義の考え方である。

 ここが、まさしく議論の焦点だ。典型的な反対論には「戦争をしない国から戦争ができる国に変わってしまう」という議論がある。だが、現実には戦火は絶えず紛争もある。それに目を塞ぐのか。

 とりわけ、日本は北朝鮮と中国の問題がある。集団的自衛権を認めず、米国にも頼らず、一国平和主義に徹するというなら、とどのつまりは日本が自力で大軍事国家を目指す以外に防衛手段がなくなってしまうだろう。そんな馬鹿げた話はない。

 世界は国連を作ったときから、とうに「悪漢はみんなで退治する」という集団安全保障を目指している。今年は安保防衛問題をめぐって現実的な議論を望みたい。

文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。

※週刊ポスト2014年1月17 日号

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