ライフ

堺屋太一がこの先20年を見越した近未来小説『団塊の秋』登場

【書評】『団塊の秋』/堺屋太一/祥伝社/1785円
【評者】青木均

 第二次世界大戦後のベビーブームで誕生した世代について、「団塊の世代」という言葉を創出した著者の最新作。著者の代表作『団塊の世代』(1976年刊)はかつてセンセーションを巻き起こしました。人口の多いこの世代の成長が日本経済を揺るがし、政治のあり方を変えていく状況をすでに予測していたからです。本書はその続編です。

 登場するのは、1971年の大学卒業時、アメリカに旅行した際に知り合い、その後もつきあいが続く7名。それぞれ、国会議員、キャリア官僚、高校教師、経営者、銀行員、新聞記者、労働組合幹部となり、社会的成功をおさめています。が、この7人にさまざまな苦難が待ち受けていて、それは日本の苦悩を体現しているかのようです。

 2015年から2028年までが取り上げられていますが、日本経済は超高齢化の中で、円安・物価高に見舞われて疲弊すると予測されます。アベノミクスや円安は日本経済を復活させず、経済構造は変化しないまま、ずるずると衰退していく様が記されているのです。国内しか見ない近視眼の政治と官僚統制の結果、“世界の田舎”になった日本は貧しくなるというのです。

 興味深いのは、登場人物の築いた家族です。団塊の世代は子育てに失敗したと回想することが多いそうです。それを反映しているのか、登場人物の老後の家族関係は良好とはいえなさそうです。そこで描かれる「希薄な親子関係」「無軌道な娘」「結婚できない息子」は、経済情勢の悪化が生み出したとばかりはいえないでしょう。団塊の世代とその家族は日本の家庭における価値変化をも象徴してきたことが示されています。

 旧作『団塊の世代』の予測はある程度当たっていました。はたして、本書の予測はどうでしょうか。

 基本的に、今後の停滞が予測されています。数々の政治・経済改革を提言してきた筆者にとって、その予測は本意ではないのかもしれません。根本的な改革を先送りしてきたこの社会に警告を与えるため、執筆したのかもしれません。

 最終章、過疎を生かして家族労働中心に新規事業を起こし、最後の花を咲かせようとする経営者が登場します。筆者が警告とともに与えたかった希望なのだと気づいて、本を閉じました。

※女性セブン2014年1月23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン