国際情報

アントニオ猪木氏 「北朝鮮の首脳達はプロレスを見ている」

 北朝鮮で金正恩・第一書記の叔父で事実上のナンバー2であった張成沢(チャンソンテク)氏が突然失脚し、処刑された。昨年11月に訪朝して失脚直前の張氏と会談したのがアントニオ猪木・参院議員だ。猪木氏とインテリジェンス分析のプロである元外務省主任分析官・佐藤優氏が処刑の背景を語り合った。

 * * *
佐藤:今回の処刑の背景を私はこう分析しています。日本のメディアはまったく報じませんが、金正恩が最近『最後の勝利のために』という論文集を出しました。その内容からは金正恩が父・金正日の時代とは違う独自路線を歩もうとしていることが読み取れます。  

 ポイントは二つあって、一つは〈革命家の血筋を引いているからといって、その子がおのずと革命家になるわけではない〉という部分。もう一つは数学をはじめ基礎科学教育を新たに強化すべきだとしている点です。共通するのは今までとは違う基準で人材を評価するというところで、金正恩は「エリート層の入れ替え」を考えていると読めます。

 張氏の失脚後に北朝鮮側とやり取りはありますか?

猪木:ええ、「猪木さんと今までやってきたことは今後も変わらず続けていく」とメッセージをもらいました。

佐藤:金正恩の論文の内容と符合します。指導部のプレーヤーを一部入れ替えても路線や人脈のかなりの部分を引き継いでいきたいわけです。他にどんな話があったのでしょうか。

猪木:短い時間でしたが、こちらが覚悟を持ちリスクを取って会いに行ったことをわかってくれていましたよ。こうした取り組みの正しさは歴史が証明すると言っていました。この会談の映像もどんどん公開してもらっていいと。

佐藤:「歴史が証明する」と?

猪木:ええ。 佐藤 旧ソ連の権力者たちもそうでしたが「歴史が証明する」と言うのは健康状態に問題がある時か政争に巻き込まれた時です。張氏は自分が窮地にあると認識した状況で猪木先生に会いたいと思った。これが重要なことだと思います。北朝鮮の首脳たちはプロレスを見ますか?

猪木:見てますね。11月に訪朝した時は、現地のテレビでプロレスの特集をしていました。私が師匠(力道山)の付き人をしている時代の映像であるとか、様々なフィルムを集めていましたね。それをみんなが見ているのでしょう。街を歩くと歓迎の声援がものすごかった。

佐藤:そうでしょう。旧ソ連でも猪木先生は大統領になる前のエリツィン氏やゴルバチョフ政権下の要人と会談しています。ソ連では表向きプロレス観戦は禁じられていた。ところが指導者層も格闘技が大好きだからビデオが出回り、スターである猪木先生に会いたいと考える。北朝鮮も同じです。

 特に猪木先生の師匠である力道山は咸鏡南道(ハムギョンナムド、現在の北朝鮮東部)の出身。プロレスでアメリカ帝国主義者をやっつけた英雄というコンテクスト(文脈)で見られています。張氏との最後の会談相手が猪木先生だったのは偶然ではなく、張氏が「選んだ」と考えていい。外交では何が向こうの琴線に触れるかがとても重要です。

※SAPIO2014年2月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン