海棠花(ヘダンファ)グループは、北京など海外で北朝鮮レストランを運営する「外貨稼ぎ」部門であり、最近では北朝鮮初となる複合商業施設「海棠花館」を平壌市内にオープンさせている。
韓明姫は後に、保衛部が張の行状を調べようとグループの施設を訪れた際、「ここがどこだと思っているの!? 張部長同志が毎日いらっしゃる場所よ!」と一喝したという。保衛部は泣く子も黙る秘密警察であり、それをまったく恐れない彼女の態度は、張の権勢のほどを物語っている。
「最高司令官同志は張の行状に、不快感を募らせていました。そこに、2012年12月17日の出来事が起きたのです。最高司令官同志と張は、本来なら毎日顔を合わせる間柄です。しかし張は次第に遠ざけられ、何日も会わないこともあった」
この異変は、実は諸外国でも観測されていた。従来、張は金正恩の行動に影のように付き従っていたのに、2013年に入ってから、2人がともに行動する頻度が激減したのだ。
「ことここに至り、張も自分の身辺に若干の不安を感じるようになりました。2013年2月初旬には(金正恩への恭順を示すため)それまでは自分が受け取っていた党・軍・政府のいっさいの報告資料を、最高司令官同志に直接上げるよう指示している。しかし同じ月、最高司令官同志は彼の行状を徹底的に調べるよう、保衛部に極秘指令を下しているのです」
そして7月末、張と彼の取り巻きは決定的なミスを犯した。ある日のパーティーの席上、張の最側近である党行政部の李竜河(リリョンハ)第一副部長、張秀吉(チャンスギル)副部長らが、酒に酔った勢いで「張部長同志、万歳!」「張部長同志の万寿無疆を祝願します!」などと叫んだというのだ。
かの国において「万歳」を叫ぶ対象となるのは、金日成・金正日の血統を継ぐ最高指導者以外はありえない。その禁をおかしたことで、張の一派は「反党反革命分派行為」という、北朝鮮では最悪の「罪」に問われることになる。
「この件は、ただちに最高司令官同志に報告されました。そして9月、保衛部と護衛司令部に対して、最高司令官命令001号、作戦名『ポップン(爆風)』の実行が命じられたのです。
同作戦では、張が自宅に軟禁されるとともに、彼の関係者とみなされた7200人もの人々が一夜のうちに拘束された。李竜河、張秀吉のふたりが処刑されたのは海外でも報道されている通りです」
しかしその後、拘束された7200人のほとんどは釈放されたという。
※週刊ポスト2014年1月24日号