ソチ五輪が始まり、冬と夏の違いはあるが2020年東京五輪が近づいていることに思いが及ぶ。長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』ほか著書を多数持つ鎌田實氏は、「今でしょ」という流行語に象徴されるような短絡的な考え方で、平和の祭典である五輪を迎えてよいのかと疑問を投げ掛けている。
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2度目の東京オリンピックが開催される2020年、日本はどうなっているのだろう──。
安倍首相が打ち出した異次元金融緩和は、円安と株高を見事に演出し、同時に公共事業に巨額のお金を投入し始めた。だが、国民には本当に経済成長した実感は目下のところない。
金融緩和とコンクリートのお金によって表面上は株高になり、一見、日本経済は元気に見えるが、個人の収入が上がらないため、内需は拡大しない。むしろ、円安による原料や燃料の輸入コスト高になり物価が上昇するという、悪いパターンのインフレが起き始めている。
この16年間、経済を成長させようと政府は約650兆円もの借金をしてカンフル剤をうち続けてきた。今度の東京オリンピックへの設備投資が約5000億円といわれるが、これまでの借金に比べればこの投資はわずかなものだ。
前回、1964年のオリンピックは、経済成長率10%の中で行なわれた。オリンピックが成長をもたらしたわけではなく、そもそもが高度成長期にオリンピックが行なわれたというだけの話なのだ。
オリンピックを単なる成長の道具だと考えると、スペインやギリシャのように大きな赤字を背負うハメになる。ロンドンオリンピックでさえも、その後にはマイナス成長になった。そろそろオリンピックの“平和の祭典”という本来の役割を考えたほうがいい。
昨今、「今でしょ」とそれに似たような「お金でしょ」「自分でしょ」がまかり通っている。これで本当にいいのだろうか──。
「今でしょ」は昨年の流行語大賞の1つに選ばれたが、視点が短期的で、判断は直感的、決断も一瞬で慌ただしい。人を刺したり、ロケット弾で砲撃したり、テロ攻撃をかけたりするときに「今でしょ」でいいのか。
「お金でしょ」は、すべて金、金、金。もっと大事なものがあるはずなのに。
「自分でしょ」は、なんだかんだいったって、所詮、自分がいちばん。それはその通りなのだが、なにか虚しい。
人間がひとりきりでは生きていけないように、日本は自分たちだけで生きていくことは出来ない。だからつながりが大事なのだ。
お金で縛られないで、「今でしょ」という短期的な考えよりも中長期的な視野で大きな流れを読みながら、日本が世界の中でどんな役割をしたらいいのか。オリンピックを前に考えるときが来ている。
※週刊ポスト2014年2月14日号