ビジネス

VAIO初期型は慶応の学生が小脇に抱えるイメージで開発された

 2月6日、ソニーがパソコン事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡することが発表された。かつてソニーの「VAIO」ブランドはB5ノートパソコン市場を開拓し、一大ブームを起こした。それがソニーから離れることに一抹の寂しさを感じるユーザーも多いだろう。「VAIO」の開発陣を取材した経験があるフリーライター・神田憲行氏が語る。

 * * *
 「VAIO」が発売されたのは1996年のこと。97年に発売されたB5型ノートパソコン「PCG-505」は薄さ23.9ミリ、重さ1.35キロという当時としては画期的なスペックで、印象的な紫の外装とともにパソコンユーザーに熱狂的に歓迎された。私は98年、パソコン事業の方々を取材して周り、パソコン雑誌に長いレポートを書いた。その過程で出会った開発に携わった人々はみんな個性的で、実に印象深かった。

 「VAIO」のデザインを担当した責任者は、あの紫の塗装についてこう語っている。

「社内では抵抗がありましたが、みんなの意見を聞いていると結局、白か黒に落ち着いてしまうので僕の最終判断で通してもらいました。紫にした理由は黄色と補色の関係にあるからです。白いパソコンは使い続けるとだんだん黄ばみが目立って古くさくなる。でも紫なら黄ばみが目立たず、お店の店頭でいつ見ても新鮮な印象を受ける」

 前出の「505」のモック(模型)を依頼されたとき、メールにスペックとそのイメージとしてこうあったという。

「B5ノートで慶応の学生が小脇に抱えたイメージで」

 それであの薄型で洒落たデザインになったのである。

 A4サイズのノートパソコンの技術者もユニークな人だった。A4サイズではたとえば、キーボードのキャップスキーとコントロールキーをわざと同じ大きさに作ったという。両方のキー位置を交換したいユーザーのために、キートップを自分ではずして付け替えられるようにしたのである。またCDドライブなどを納める内蔵ベイには、実は2台目のハードディスクが入れられるよう設計した。もちろんそんなことをすれば「改造」になって壊れてもメーカー保証外になってしまうが、なぜわざわざそんな設計をしたのか訊ねた私に、彼はさも当たり前という感じでこう答えた。

「え? だってそういうのが自分で欲しかったから」

 ちなみに彼はIDカードを首から提げるヒモがApple社のロゴが入ったものを使っていて、写真撮影の段になっていそいそと自社のロゴが入ったものに付け替えたのがおかしかった。

 強烈な印象だったのが、デスクトップコンピュータ部統括部長に就任した辻野晃一郎氏だった。部屋で辻野氏を待つ間、広報の女性が小声で、

「うちのエースです。ちなみに女子社員人気ナンバーワンです」

 とおかしそうに教えてくれた。辻野氏はノート型に比べて売り上げが伸びないデスクトップ事業のために急遽、たしかアメリカから呼び戻されてきて、ミニタワータイプの整理など大なたを振るっていた。

「反発はすごいですよ(笑い)なんの実績もないですから。新参者が来て、最初はアイツなんだということでしょうね。だけど私はそういうこと気にしている余裕すらなくて、デスクを売る一点しか関心がない。ビジネスをやる理由とは勝つことであり、そのためにどうすればいいか、考えればよい。それ以外のことを配慮する余裕はなくプレッシャーも続いていますから」

 自分の好きな道を追求する技術者に比べて「勝つ」という言葉を使う辻野氏を見て、なるほど、こういう人がソニーの次世代を引っ張って行くのかと、眩しかった。しかしその後辻野氏はソニーを去り、グーグル日本法人社長を経たあと現在は自分で事業を興されている。私は辻野氏が今もソニーに残っていたらどうだったろうと、考えざるを得ない。

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン