いわゆる再犯率=検挙人数に占める再犯者の割合は、1997年より一貫して上昇し、2012年には45.3%と過去最悪を記録した。再犯率が高い理由のひとつに、出所後の生活を支える働き口の問題がある。だが、雇用側は“リスク”を恐れるため、その“縁結びは”容易ではない。更生を誓う出所者の雇用促進──官民協働による新たな取り組みが注目を集めている。未来を見つめ、再起を期す人と、受け入れる企業側の思いを追った。
「ここを出た後に仕事が決まっていることについては、どう感じますか」
「将来の計画が立ち、希望が持てるので、気持ちが楽です」
山口県の美祢社会復帰促進センターの一室。ここはコンクリートの塀や金網、鉄格子のない、官民協働による新しいタイプの刑務所だ。今まさに、“内定者”への面接が行われていた。
面接しているのは、大阪のお好み焼専門店「千房」社長の中井政嗣さん(68才)。仕事も家も失い、生活苦から犯した窃盗と住居侵入の罪で逮捕され、1年8か月収監されていた20代の男性が質問に答えていた。仮釈放の後、今春から千房で働くことが決まっている。
「この『職親プロジェクト』では、前科のある過去をすべてオープンにしていくことになるけれど、抵抗はないの?」と中井社長が聞く。青年は、真摯な表情で答える。
「過去に事件を起こしてしまったことは事実なので、仕方ない。隠す必要はありません」
中井社長はこう語りかけた。
「きみがオープンにして働くことで、“過去、犯罪を犯したけれど、今は違う”ということを、世に知らしめたいんだ。自分だけでなく、次に続く人のためにも頑張ってほしい」
青年は、決意を表すように強くうなずいた。
「ぼくも迷惑をかけた家族ともう一度やり直したいのです」
この面接は、「職親プロジェクト」の一環で行われた。昨年2月に大阪に拠点を置く企業9社が日本財団と協定を結び、刑務所や少年院を出所した人のために働く場を提供して、“職の親”として再犯防止をしようという取り組みだ。
対象者は、殺人、薬物、性犯罪などを除く初犯の受刑者で、更生の意欲が高い人に限る。財団が1人につき月8万円の支援金と交通費を企業に6か月にわたり支給し、就労を支援していく。関西の企業への内定者は14人を数え、すでに就労を開始。その後2社が加わり、さらに関東でも9社が調印し、雇用を進めていく予定だ。
なぜ、職の斡旋なのか。法務省の「平成25年版犯罪白書」によれば、一般刑法犯の再犯率は1997年から16年連続で増加している。日本更生保護学会会長で常磐大学教授の藤本哲也さんが言う。
「職のない出所者の再犯率は、有職者である出所者の約5倍。職がないばかりに生活に困窮し、再犯してしまうケースが多々あるため、就労と居場所の確保は再犯防止につながるのです。しかも、受刑者には1人あたり年300万円程度の経費(税金)がかかることを考えると、再犯を防ぐことは社会全体にとって緊急の課題です」
法務省ではこれまでも出所者の雇用を進めるため、保護観察所で「協力雇用主」を募ってきた。約1万1000社が登録しているが、実際に採用したのはわずか380社と3.4%にすぎない。
「登録企業の多くは中小零細が多いので、経営的に余裕がなく、出所者の受け皿になれていないのが現状です」(同省保護局社会復帰支援室)
そこで、企業と雇用者双方にとって高いハードルとなる初期費用を援助することで、「親のように指導していくのが、職親プロジェクトだ」と日本財団広報グループ・福田英夫さんは語る。
※女性セブン2014年3月6日号