ライフ

宗教学者の島田裕巳氏 簡略化した葬儀「0(ゼロ)葬」を提案

 遺族に負担をかけず、静かに逝きたい。葬儀費用約200万円、お墓代約280万円(東京都)ともいわれる従来の「終活」を見直す動きが高まりつつある。そこで宗教学者の島田裕巳氏が提唱するのが「0葬」である。一銭も払いたくない、払わせたくないと願う人々が実践する新たな「葬られ方」をレポートする。

 * * *
 日本の伝統習俗への疑問は、最近巻き起こったものではありません。近代に入って最初に「葬式はいらない」と唱えたのが自由民権運動で知られる中江兆民です。遺言には「死んだらすぐに火葬場に送って荼毘にしろ」とありました。

 文豪・夏目漱石も葬式不要論者の一人で、自身のロンドンでの留学体験を踏まえて書かれた『倫敦塔』という小説のなかに、「余は死ぬ時に辞世も作るまい。死んだ後は墓標も建ててもらうまい」といった言葉を記しています。

 それでも戦前の日本には、「葬式」に求められる役割がありました。日本はまだまだ貧しく、人々が天寿を全うできる状況になかった。戦争や天災、疾病などで命を落とすことは“日常”でしたし、大往生は限られた者にしか許されなかった。

 若くして亡くなった無念を晴らすために遺された者が供養をし、その“功徳”によって死者を極楽浄土に導くというシステムが社会的に求められたんです。

 でも、豊かな暮らしを多くの人々が享受でき、平均寿命が80歳に届かんとする現代では、こうした浄土教信仰の基盤が崩れつつある。

 都市部への人口集中や核家族化など日本古来の伝統に押し寄せる波も、もはやとどめようがない。私はそれらを悲観するよりも、「これで葬り方の『自由』を得ることができる」と歓迎したいと思っています。

 日本の仏教が“葬式仏教”と揶揄されるようになって久しいですが、葬送の場において、仏教は役割を終えつつあります。

 それを象徴するのが戒名です。「戒名は、仏教の信者になった真の証」というのが仏教界の考えでしょう。しかし現代では仏教への信心によってではなく、社会的地位、もっといえばお布施の額によって戒名の立派さが決まります。

 私は「院号のインフレ化」と呼んでいますが、かつての村社会では有力な門家しか授かることができなかった“院号”が、今ではお金さえ多く払えば誰でも授かることができるようになりました。

 背景にあるのが現代における“寺院経済”の歪みです。都市部では檀家との関わりが薄く、年忌法要も減少しているので、お寺としては葬式時のお布施が有力な収入源です。その際、院号のついた戒名を授けることで、より多額のお布施を得ようというのが寺院側の狙いなのです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

衝撃を与えた日本テレビ系列局元幹部の寄付金着服(時事通信フォト)
《24時間テレビ寄付金着服男の公判》「小遣いは月に6〜10万円」夫を庇った“妻の言い分”「発覚後、夫は一睡もできないパニックに…」
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO
《国民に愛された『TOKIO』解散》現場騒然の「山口達也ブチギレ事件」、長瀬智也「ヤラセだらけの世界」意味深投稿が示唆する“メンバーの本当の関係”
NEWSポストセブン
漫画家の小林よしのり氏
小林よしのり氏、皇位継承問題に提言「皇室存続のためにはただちに皇室典範を改正し、愛子皇太子殿下の誕生を実現しなければならない」
週刊ポスト
教員ら10名ほどが集まって結成された”盗撮愛好家グループ”とは──(写真左:時事通信フォト)
〈機会があってうらやましいです〉教師約10人参加の“児童盗撮愛好家グループ”の“鬼畜なやりとり”、教育委員会は「(容疑者は)普通の先生」「こういった類いの不祥事は事前に認知が難しい」
NEWSポストセブン
警視庁を出る鈴木善貴容疑者=23日午前9時54分(右・Instagramより)
「はいオワター まじオワター」「給料全滅」 フジテレビ鈴木容疑者オンカジ賭博で逮捕、SNSで1000万円超の“借金地獄”を吐露《阿鼻叫喚の“裏アカ”投稿内容》
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO(HPより)
「TOKIOを舐めるんじゃない!」電撃解散きっかけの国分太一が「どうしても許せなかった」プロとしての“プライド” ミスしたスタッフにもフォロー
NEWSポストセブン
大手芸能事務所の「研音」に移籍した宮野真守
《異例の”VIP待遇”》「マネージャー3名体制」「専用の送迎車」期待を背負い好スタート、新天地の宮野真守は“イケボ売り”から“ビジュアル推し”にシフトか
NEWSポストセブン
「最近、嬉しかったのが女性のファンの方が増えたことです」
渡邊渚さんが明かす初写真集『水平線』海外ロケの舞台裏「タイトルはこれからの未来への希望を込めてつけました」
NEWSポストセブン
4月12日の夜・広島県府中町の水分峡森林公園で殺害された里見誠さん(Xより)
《未成年強盗殺人》殺害された “ポルシェ愛好家の52歳エリート証券マン”と“出頭した18歳女”の接点とは「(事件)当日まで都内にいた」「“重要な約束”があったとしか思えない」
NEWSポストセブン
「父としての自覚」が芽生え始めた小室さん
「よろしかったらお名刺を…!」“1億円新居”ローン返済中の小室圭さん、晩餐会で精力的に振る舞った理由【眞子さんに見せるパパの背中】
NEWSポストセブン
多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン