かつて渡辺は言っていた。「父が教えてくれた。政治家はカネと女と権力の3つを求めてはいけない。政治家は権力を目指すのだから、あとの2つはあきらめろ、と」

 実際、私が知る渡辺はそうだった。夜、若い女性記者と1対1の取材を受けるとき、帰宅途中の私に電話してきて「悪いけど同席してくれ」と頼まれたこともある。

 カネについても、先代から長く仕えた元秘書は「党の政治資金と自分のカネの区別は徹底していた。夫人同伴で地方に応援に行ったときも『今夜のホテル代は自分で払う』と言って党に払わせなかった」と打ち明けた。

 そんな渡辺が本来、だれよりも身ぎれいで慎重であったはずのカネの問題でつまずいた。その陰に夫人の存在がチラついているのであれば、私はあえて言いたい。

 代表辞任で幕引きとするのではなく、党と自らの政治活動について徹底的にガバナンスを見直すべきだ。そうでなければ、いくら公務員制度改革や政治のガバナンス強化を力説してみても、国民はシラケてしまう。

 先代の故・渡辺美智雄副総理は色紙によく「大道無門」と書いた、という。「大きな道に門はない」「絶対自由」という意味だそうだ。掲げた政策は正しい。ここは苦しくとも原点に戻って「大道」を歩いてほしい。

(文中敬称略)

文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。

※週刊ポスト2014年4月25日号

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