芸能

「花子とアン」と協奏する世界的名作の魅力を女性作家が解説

 名作は、時を経て更に輝きを増すことがある。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

  * * *
 NHK朝ドラ「花子とアン」。いよいよ放送開始から1ヶ月が経過し、視聴率24%超の日もあり、絶好調です。


 何といっても、女学生の空間に鋭い亀裂を走らせる葉山蓮子がいい。演じている仲間由紀恵の存在感が際立つ。暗い表情を崩さず、ぴりぴりした緊張を作り出す蓮子。強い意志を持った風変わりな人物を、絶妙に演じきる仲間由紀恵に一票入れたい。

 蓮子という存在が放つ、違和感。どこか居心地の悪さを抱え、孤独感を漂わす。葛藤を感じさせる。考えてみると、小説『赤毛のアン』のテーマもそこに重なりあう。捨てられた赤毛の孤児・アンが、見も知らぬ土地で、最初は拒絶されつつ、生きる場所と人との関係を少しずつ獲得していくストーリー。朝ドラ「花子とアン」と『赤毛のアン』は、興味深いハーモニーを奏で始めています。

 では、ドラマを観るだけではわからない、本の世界独自の魅力とは?

『赤毛のアン』を数十年ぶりに開いてみると。あるいは、まだ読んでいなかった人が手にとってみると…。

『赤毛のアン』の世界は「少女のバイブル」とも言われ、独特のパワーを放つ。何を隠そう私自身も小学校の時に親から与えられて、最初はイヤイヤ文庫本の小さな文字を目で追った一人。教育的見地から読まされているうちに、気付けばアンの世界にハートを掴まれ、どっぷりとその世界に没入していました。

 不思議な点。それは、何十年経過しても、本の中の世界がとてもリアルに感じられること。風の匂い、微妙な色彩、空気感……自分の身体にいまだに刻みこまれたまま風化しないのです。

 まるで自分がアンの隣にいたかのように。クイーン・エリザベス島の路地の光や影などが、生々しい体験のごとく思い出されるから奇妙です。

 頻繁にぺージをめくっていたわけでもない。ストーリーを詳細に暗記しているわけでもないのに。この記憶、いったい何が牽引力になっているのでしょうか?

 あらためて本を開き……「なるほどそうだったのか」と膝を打ちました。

「崖の下には波ででこぼこになった岩がつみかさなり、大洋の宝石のような小石でしきつめられた小さな砂の入り江があったりした。その向こうは輝く青い海で、かもめが翼を日光で銀色に光らせて、舞いあがっていた」(『赤毛のアン』第五章 村岡花子訳)

「涼しい風がとりいれのすんだ畑をぬけ、ポプラの間をさらさらとわたっていった。果樹園の上にただ一つ星が輝き、ほたるが『恋人の小径』のしだや小枝の間を縫うように飛んでいた」(同 第二十二章)

 文章がとても具体的で描写的。質感や音、匂いが伝わってくる。言葉が即イメージ化され、頭の中で風景が再現される。そうした言葉が読み手の少女の頭にインプットされ、ユートピア的な世界をいきいきと再現する原動力になっていたのでは。ある種のバーチャルリアリティ効果かもしません。

 あるいは、こんな描写も。

「森では光線がエメラルドのような葉の間を幾重にもくぐってさしこんでくるので、まるでダイアモンドの心臓のように透きとおって映った」(同 第十五章)

なにかに似ていませんか? 私がふと連想したのは――。


「あらたうと 青葉若葉の日の光」  松尾芭蕉

 自然界の色や光を、感覚センサーで細やかにキャッチし、描写していく記述スタイル。季節の変化の瞬間を捉えていく俳句の感性と、『赤毛のアン』に頻繁に出てくる自然描写は、どこか通じているような気がするのは私だけでしょうか?

 実は『赤毛のアン』を強烈に愛読しているのは世界中でも作品の故郷・カナダと日本とポーランドだけと、新聞にありました。遠い異郷・カナダで生まれた文学が、日本的五感・感性と響きあった結果、バイブルになった? 少女たちの心を掴んできた秘密の一端が、かいま見えたような気がします。

関連記事

トピックス

「ビッグダディ」こと林下清志さん(60)
《借金で10年間消息不明の息子も》ビッグダディが明かす“4男5女と三つ子”の子供たちの現在「メイドカフェ店員」「コンビニ店長」「3児の母」番組終了から12年
NEWSポストセブン
女児盗撮の疑いで逮捕の小瀬村史也容疑者(37)。新たに”わいせつ行為”の余罪が明らかになった
「よくタブレットで子どもを撮っていた」不同意わいせつ行為で再逮捕の小瀬村史也容疑者が“盗撮し放題だったワケ” 保護者は「『(被害者は)わからない』の一点張りで…」
NEWSポストセブン
「ビッグダディ」こと林下清志さん(60)
《多産DVを語ったビッグダディ》「子どもができたら勝手に堕ろすんじゃないぞ」4男6女の父として子供たちに厳しく言い聞かせた理由
NEWSポストセブン
成年式を控える悠仁さまと第1子を出産したばかりの眞子さん(写真・右/JMPA)
眞子さん、悠仁さまの成年式を欠席か いまなお秋篠宮家との断絶は根深く、連絡を取るのは佳子さまのみ “晴れの日に水を差す事態”への懸念も
女性セブン
ボニー・ブルーとの2ショット(インスタグラムより)
《タダで行為できます》金髪インフルエンサー(26)と関係を持った18歳青年「僕は楽しんだから、被害者になったわけじゃない」 “捕食者”との批判殺到に反論
NEWSポストセブン
2人は結婚3年目
《長髪62歳イケオジ夫との初夫婦姿》45歳の女優・ともさかりえ、3度目の結婚生活はハッピー 2度の離婚を乗り越えた現在
NEWSポストセブン
オーナーが出入りしていた店に貼られていた紙
「高級外車に乗り込んで…」岐阜・池田温泉旅館から“夜逃げ”したオーナーが直撃取材に見せた「怒りの表情」 委託していた町の職員も「現在もまだ旅館に入れない」と嘆き
NEWSポストセブン
記者の顔以外の一面を明かしてくれた川中さん
「夢はジャーナリストか政治家」政治スクープをすっぱ抜いた中学生記者・川中だいじさん(14)が出馬した生徒会長選挙で戦った「ものすごいライバル候補」と「人心を掴んだパフォーマンス」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博内の『景福宮』での重大な疑惑が発覚した(時事通信)
《万博店舗スタッフが告発》人気韓国料理店で“すっぱい匂いのチャプチェ”提供か…料理長が書いた「始末書」が存在、運営会社は「食品衛生上の問題はなかった」「異常な臭いはなかった」と反論
NEWSポストセブン
63歳で初めて人生を振り返った俳優・小沢仁志さん
《63歳で初めて人生を振り返った俳優・小沢仁志》不良役演じた『ビー・バップ』『スクール☆ウォーズ』で激変した人生「自分の限界を超える快感を得ちまった」
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがニューシングル『Letter』をリリース(写真・左/AFLO、写真・右/Xより)
羽生結弦の元妻のバイオリニスト・末延麻裕子さん、“因縁の8月”にニューシングル発売 羽生にとっては“消せない影”となるのか 
女性セブン
雅子さまのご静養に同行する愛子さま(2025年8月、静岡県下田市。撮影/JMPA) 
愛子さま、雅子さまのご静養にすべて同行する“熱情” そばに寄り添う“幼なじみ”は大手造船会社のご子息、両陛下からも全幅の信頼 
女性セブン