ライフ

夏目房之介『ノルウェイの森』読み登場人物が隣にいた気分に

 時間がたっぷりあるゴールデンウィークに読書でもいかが? マンガ・コラムニストで学習院大学大学院教授の夏目房之介さんが、絶対に読み返したい3冊を紹介します。

 * * *
【1】『硝子戸の中』夏目漱石/新潮文庫/367円
【2】『ノルウェイの森 上・下』村上春樹/講談社文庫/555円(上下とも)
【3】『ノモンハンの夏』半藤一利/文春文庫/734円

 49才で亡くなった漱石が晩年、病床で書いたエッセイが【1】。枯れた文章で、生い立ちや自らの置かれた環境について、とつとつと書かれた地味なエッセイなんですが、どういうわけか中学のときにこれを読んで、すごく好きになったんですよ。なんでそんな老境にあるものを中学生が好んだのかよくわからないし、父親には30年早いと言われましたけど(笑い)。

 なぜか、いちばん漱石を感じるんです。だからいまだに何度も読み返しますし、年をとればとるほど理解が深まっていく。ま、性に合っているんでしょうね。

【2】は時代設定が1969年くらい。主人公は最終的に前にも後ろにも進めないような状態に陥ります。その辺りの描写が当時のぼくの感覚とまったく同じで驚きました。たぶん村上春樹という作家は、一部の同世代にとって非常に共感できる存在で、ぼくは特にそれを強く感じて、なかでもいちばん強烈だったのがこの小説。

 ちょっと不思議な経験ですが、登場人物の女性のひとりが隣にいる感覚があったんです。存在感があって、すぐそばに彼女が座っている気がした。なぜかすごくリアルで奇妙な体験でした。

【3】は「ノモンハン事件」と呼ばれる“戦争”について。教科書では知りえない日本の歴史の一端を垣間見た気がします。ぼくらが教科書で習った歴史以外の史実があって、それを掘り起こして、書いてくれる人がいて初めてわかる事実がある。

 編集者から作家になった半藤さんが司馬遼太郎の遺志を受け継いで書いた渾身の力作。非常に迫力のある作品です。

※女性セブン2014年5月8・15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
川崎春花
【トリプルボギー不倫の余波】日本女子プロ2022年覇者の川崎春花が予選落ち 不倫騒動後は調子が上向かず、今季はトップ10入り1試合のみ「マイナスばかりの関係だった」の評価も
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
「中野駅前大盆踊り大会」前夜祭でのイベント「ピンク盆踊り
《中野区長が「ピンク盆踊り」に抗議》「マジックミラー号」の前で記念撮影する…“過激”イベントの一部始終
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
『東宝シンデレラ』オーディション出身者の魅力を山田美保子さんが語ります
《第1回グランプリは沢口靖子》浜辺美波、上白石姉妹、長澤まさみ…輝き続ける『東宝シンデレラ』オーディション出身者たちは「強さも兼ね備えている」
女性セブン
9月6日から8日の3日間、新潟県に滞在された愛子さま(写真は9月11日、秋篠宮妃紀子さまにお祝いのあいさつをするため、秋篠宮邸のある赤坂御用地に入られる様子・時事通信フォト)
《ますます雅子さまに似て…》愛子さま「あえて眉山を作らずハの字に落ちる眉」「頬の高い位置にピンクのチーク」専門家が単独公務でのメイクを絶賛 気品漂う“大人の横顔”
NEWSポストセブン
川崎市に住む岡崎彩咲陽さん(当時20)の遺体が、元交際相手の白井秀征被告(28)の自宅から見つかってからおよそ4か月
「骨盤とか、遺骨がまだ全部見つかっていないの」岡崎彩咲陽さんの親族が語った “冷めることのない怒り”「(警察は)遺族の質問に一切答えなかった」【川崎ストーカー殺人】
NEWSポストセブン
シーズンオフをゆったりと過ごすはずの別荘は訴訟騒動となっている(時事通信フォト)
《真美子さんとの屋外プール時間も》大谷翔平のハワイ別荘騒動で…失われ続ける愛妻との「思い出の場所」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン
「ビルオーナーに冷房拒否を通達されて…」猛暑に苦しむ清掃員の嘆き 労働安全衛生規則の改正で事業者に義務付けられた「熱中症対策」について、弁護士が解説
「ビルオーナーに冷房拒否を通達されて…」猛暑に苦しむ清掃員の嘆き 労働安全衛生規則の改正で事業者に義務付けられた「熱中症対策」について、弁護士が解説
マネーポストWEB