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K2世界初登頂めぐる裏切り 名誉かけ50年以上にわたる訴訟に

 ホモ・サピエンス(人間)はヘンテコな生き物であると新刊『人間らしくヘンテコでいい』(集英社)を上梓した医師の鎌田實氏は、人の心は温かくて優しい半面、冷酷でもあり、自分も例外ではないという。映画『K2 初登頂の真実』で描かれた冷酷な心が暴れる様子について、鎌田氏がつづる。

 * * *
 僕たちのNPOでは毎年、イラクや福島の子どもたちの支援をしようと、バレンタインデーになるとチョコレートを販売している。総額8000万円を、全国の人々が買って応援してくれる。チョコには大勢の温かな心が詰まっている。人はそういう心も持っている。

 だが、呼びかけている僕の心の中にも温かくて優しい心はある反面、冷酷な心もある。心の中の“獣”がいつ暴れるかは分からないから自分で自分が怖くなる。

 映画『K2 初登頂の真実』を見てきたが、その中でも“獣”が暴れる様子が描かれていた。

 20世紀を代表する登山家、ワルテル・ボナッティの物語。1954年、イタリアのアタック隊が世界第2の山頂、K2を目指すのだが、どうしても自分たちが世界初登頂を成し遂げたい2人の青年にボナッティが裏切られる。

 2人の青年は荷揚げ予定地を当初の予定よりも高い位置に設定し、そこまでボナッティにアタック用の酸素ボンベを運ばせる。しかしそこには誰もいない。疲れ切ったハイポーターをかばいながらボナッティは8000メートルの高地でビバークを強いられる。凍傷を負ったポーターを連れてボナッティは下山を決意。彼が上げたボンベを使って2人の青年が初登頂を達成する。

 名誉を賭けた訴訟が50年以上にわたって繰り広げられた実話である。山男はこころ清らかというイメージを持っていたが、どんな人間の中にも“獣”がいることがここでもよく分かった。

※週刊ポスト2014年5月23日号

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