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2014.05.19 11:00  週刊ポスト

くも膜下出血から生還した神足裕司氏のロボットスーツ体験記

 文字通り、歩こうという意思が脚に届かないということなんだろう。魔法を唱えているのと同じで、「目の前の箱よ、右に動け!」と念じるが、一向に箱は動かない。魔女ならば唇でも動かせば、箱は右にも左にも自由自在だ。人間というのはそもそも「脚よ!動け」なんて念じなくても、脳からの指令でスムーズに脚が動くようにできている。

 要するに、無意識ということ。HALはそんな無意識を自然とつくってくれる。HALは自分の脚のアシストというよりも、脳がつながっていない部分のアシストをしてくれているようだ。

 自分では実はどうつながっているのかよくわからないのだが、脚や手を動かせないということをみなさんにどう伝えたら、わかってもらえるか?

 夢のなかで追いかけようとしても、宙を舞っているようにスローモーションで歩けないとか……。痺れてしまった脚が、言うことをきかないとか……。もどかしいのだ。自分の身体が自分でないようで。普通の歩行リハビリと決定的に違うのは、その辺りだと思う。

 装具を付けて、杖をついて、一歩踏み出す。その一つひとつを考えて、行動になる。だから、もちろん話しながら歩くなんてできないし、いまだって思い出そうとしたら、文字すら書けなくなりそうなくらいだ。

 HALは自分が「どうだっけな? 左脚を出すんだよな」と考える前に、左脚が出ている。みなさんは、それが普通だろう。けれど、いまのボクは違う。「脚よ、動け!」と念じても、動かないのだ。

 念じれば念じるほど、動かない。それが念じれば両脚が勝手に動くのだから、こんなにすごいことはない。HALによる歩行トレーニングをするときの装着感は、きっと仮面ライダーに変身している、もしくは宇宙服を着ているようだと思う。「脚だけなのに?」と思うかもしれないが、ボクを拘束するような密着感が仮面ライダーや宇宙服のそれに似ている気がするのだ。

◆神足裕司(こうたり・ゆうじ)1957年8月10日、広島県生まれ。慶應義塾大学法学部在学中から執筆活動を開始。コラムニストのほか、テレビ、ラジオのコメンテーター、映画俳優などでも活躍する。故・渡辺和博氏との共著『金魂巻』、西原理恵子氏との共著『恨ミシュラン』はベストセラーになった。近著に闘病、リハビリの日常を記した『一度、死んでみましたが』。

撮影■矢木隆一

※週刊ポスト2014年5月30日号

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