文字通り、歩こうという意思が脚に届かないということなんだろう。魔法を唱えているのと同じで、「目の前の箱よ、右に動け!」と念じるが、一向に箱は動かない。魔女ならば唇でも動かせば、箱は右にも左にも自由自在だ。人間というのはそもそも「脚よ!動け」なんて念じなくても、脳からの指令でスムーズに脚が動くようにできている。

 要するに、無意識ということ。HALはそんな無意識を自然とつくってくれる。HALは自分の脚のアシストというよりも、脳がつながっていない部分のアシストをしてくれているようだ。

 自分では実はどうつながっているのかよくわからないのだが、脚や手を動かせないということをみなさんにどう伝えたら、わかってもらえるか?

 夢のなかで追いかけようとしても、宙を舞っているようにスローモーションで歩けないとか……。痺れてしまった脚が、言うことをきかないとか……。もどかしいのだ。自分の身体が自分でないようで。普通の歩行リハビリと決定的に違うのは、その辺りだと思う。

 装具を付けて、杖をついて、一歩踏み出す。その一つひとつを考えて、行動になる。だから、もちろん話しながら歩くなんてできないし、いまだって思い出そうとしたら、文字すら書けなくなりそうなくらいだ。

 HALは自分が「どうだっけな? 左脚を出すんだよな」と考える前に、左脚が出ている。みなさんは、それが普通だろう。けれど、いまのボクは違う。「脚よ、動け!」と念じても、動かないのだ。

 念じれば念じるほど、動かない。それが念じれば両脚が勝手に動くのだから、こんなにすごいことはない。HALによる歩行トレーニングをするときの装着感は、きっと仮面ライダーに変身している、もしくは宇宙服を着ているようだと思う。「脚だけなのに?」と思うかもしれないが、ボクを拘束するような密着感が仮面ライダーや宇宙服のそれに似ている気がするのだ。

◆神足裕司(こうたり・ゆうじ)1957年8月10日、広島県生まれ。慶應義塾大学法学部在学中から執筆活動を開始。コラムニストのほか、テレビ、ラジオのコメンテーター、映画俳優などでも活躍する。故・渡辺和博氏との共著『金魂巻』、西原理恵子氏との共著『恨ミシュラン』はベストセラーになった。近著に闘病、リハビリの日常を記した『一度、死んでみましたが』。

撮影■矢木隆一

※週刊ポスト2014年5月30日号

関連記事

トピックス

NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
雅子さまが三重県をご訪問(共同通信社)
《お洒落とは》フェラガモ歴30年の雅子さま、三重県ご訪問でお持ちの愛用バッグに込められた“美学” 愛子さまにも受け継がれる「サステナブルの心」
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
マレーシアのマルチタレント「Namewee(ネームウィー)」(時事通信フォト)
人気ラッパー・ネームウィーが“ナースの女神”殺人事件関与疑惑で当局が拘束、過去には日本人セクシー女優との過激MVも制作《エクスタシー所持で逮捕も》
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組・司忍組長2月引退》“竹内七代目”誕生の分岐点は「司組長の誕生日」か 抗争終結宣言後も飛び交う「情報戦」 
NEWSポストセブン
活動を再開する河下楽
《独占告白》元関西ジュニア・河下楽、アルバイト掛け持ち生活のなか活動再開へ…退所きっかけとなった騒動については「本当に申し訳ないです」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している
《MVP受賞のウラで》大谷翔平、ハワイ別荘泥沼訴訟は長期化か…“真美子さんの誕生日直前に審問”が決定、大谷側は「カウンター訴訟」可能性を明記
NEWSポストセブン
11月1日、学習院大学の学園祭に足を運ばれた愛子さま(時事通信フォト)
《ひっきりなしにイケメンたちが》愛子さま、スマホとパンフを手にテンション爆アゲ…母校の学祭で“メンズアイドル”のパフォーマンスをご観覧
NEWSポストセブン