第3点として、中国もロシアと同じく国連安全保障理事会の常任理事国であることを忘れてはならない。東南アジア諸国連合(ASEAN)は中国と名指しを避けながら事態の平和解決を訴えたが、手詰まり感を拭えない。中国が拒否権を持っている以上、基本的に国連は動けないのだ。
フィリピンが密漁漁船を拿捕したのは、米比軍事協定の後ろ盾があるからだった。だからといって、米国が中国と直接対決するかといえば、それはない。米国は中国をアジア太平洋の秩序に組み入れるのが基本路線である。それが米中が合意している「新型大国関係」の核心だ。
さてこうなると、攻勢はこれで終わりだろうか。そうであるわけがない。これは「実力テストの途中経過」だ。中国が主張する領海は南シナ海の実に9割に及ぶ。ことし1月には、領海で操業する漁船は中国の許可が必要という規制まで発表した。火種の口実はいくらでもある。
中国は2012年にフィリピンに近いスカボロー礁を実効支配したのに続き、昨年はカラヤン群島にあるセカンド・トーマス礁にも海軍艦艇を派遣した。国際世論の動向を見極めたうえで、遠からず次の行動に出るだろう。日本が尖閣諸島の防衛策を急がねばならないのは当然である。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年5月30日号