国内

移民受け入れで自国民賃金低下は誤り 海外移転工場の回帰も

 日本では少子高齢化により生産年齢人口が激減、若い世代には社会保障費の負担がのしかかる。そこで政府は年間20万人の移民受け入れなどの検討を始めた。移民受け入れが本当に必要なのか議論があるうえに反対論も根強いが、その中には誤解も少なくない。法政大学准教授の小黒一正氏が解説する。

 * * *
 移民受け入れのメリットは大きいのに国民的な合意は得られていない。理由の一つは、移民をめぐるいくつもの誤解があるからだ。

 最たるものが、《外国人労働者の流入により自国労働者の賃金が低下する》との説だが、アメリカの研究(Ottaviano and Peri〔2006〕)はその誤りを明らかにした。

 研究では、自国労働者を「高校中退」「高卒」「大学中退」「大卒」の4ランクに分け、移民の流入による賃金の変化を1990年から2004年までトレースした。すると、「高校中退」の賃金がわずかに低下(マイナス1.1%)したものの、残る3ランクの自国労働者の賃金は0.7%~3.4%上昇していた。4ランク平均で1.8%の賃金アップとなった。

 移民流入で労働力が増えると、競合する低学歴の自国労働者に一時的な影響が出る。しかし長いスパンで考察すると、移民と自国労働者は互いの仕事や役割を補完して棲み分ける関係になる。例えば現場の単純労働は移民が担い、自国労働者は彼らを統括するマネジャーとなる。以前より高度な仕事に就くので自然と賃金が上昇する。

 さらに廉価な労働力の供給は企業の利潤を押し上げ、結果として国全体を潤す。仮に一部の自国労働者の賃金が下がっても、移民の“果実”を政府が適切に再分配すれば、彼らは犠牲にならない。つまり、移民の活用で増えた企業利潤の一部を不利益を被った自国労働者に再配分するのだ。

 例えば移民先進国のシンガポールでは外国人材を活用する企業に、雇用税(Foreign Worker Levy)を課している。

 アメリカを見ても分かるように、移民の受け入れによって雇用が奪われることはない。日本の場合、安価な労働力を求めて海外に移転した工場の国内回帰が期待できる。法制度の違いや政情不安などのカントリーリスクを低減させたい企業にとって国内の移民労働者は大きな魅力となる。

 企業の生産拠点が日本に戻れば、国内の設備投資が拡大することはもちろん、外国人材の管理部門における日本人雇用の拡大も期待できる。

 さらに外国人労働者の居住施設や家族サービス、教育といった周辺需要が喚起され、新たな雇用を創出するだろう。

※SAPIO2014年6月号

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
「服のはだけた女性がビクビクと痙攣して…」防犯カメラが捉えた“両手ナイフ男”の逮捕劇と、〈浜松一飲めるガールズバー〉から失われた日常【浜松市ガールズバー店員刺殺】
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《左耳に2つのピアスが》地元メディアが「真美子さん」のディープフェイク映像を公開、大谷は「妻の露出に気を使う」スタンス…関係者は「驚きました」
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
大谷翔平がこだわる回転効率とは何か(時事通信フォト)
《メジャー自己最速164キロ記録》大谷翔平が重視する“回転効率”とは何か? 今永昇太や佐々木朗希とも違う“打ちにくい球”の正体 肩やヒジへの負担を懸念する声も
週刊ポスト
『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)を執筆した作家・樋口毅宏氏
「元部下として本にした。それ自体が罪滅ぼしなんです」…雑誌『BUBKA』を生み出した男の「モラハラ・セクハラ」まみれの“負の爪痕”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト