スポーツ

椎名林檎はW杯テーマ曲「NIPPON」で炎上商法を仕掛けたのか 

 2006年ドイツ大会は、ORANGE RANGEの『チャンピオーネ』がテーマソングだった。「幼稚だ」「歌が下手だ」など酷評されていたと記憶するが、歌詞も要は「みんなで盛り上がろうぜ」と言っているだけで、それ以上でも以下でもなかった。2002年の日韓大会で採用されたポルノグラフィティの『Mugen』はけっこう抽象性が高い歌詞だったが、そのぶん解釈の幅が広く、どの試合のどんな場面でも重ねることができた。

 過去のテーマソングは、どれも「日本」に触れていない。出来の良し悪しはバラバラでも、国際的な大会向けの曲であることは共有されていた。それが、今回はどうしていきなり『NIPPON』なのだろう。椎名林檎に曲の創作を依頼して、出来上がった作品を受け入れたNHKの意識が気になる。

 NHKも右傾化しているから、とは言わない。それよりも私の頭の中には、学校優等生ばかりのNHK職員が、ちょいとアブナい椎名林檎を起用した自分たちを「イケてる」と勘違いしている図、が浮かぶ。椎名林檎自身が動画で喋っていたが、曲を依頼してきた人はかなりの林檎ファンらしい。それで自分の仕事の本来の役割を見失ったのではないか。

 作品としての『NIPPON』には、プロモーションビデオの視聴を繰り返すと、テレビで違和感を覚えた私でも「カッコいいな」と思えてくるだけの力がある。音楽は好き好きなので、自分だけ分かったかのような批評はしたくないが、椎名林檎の楽曲の魅力はデカダンスでアングラでやや変態気味にエロい世界の創造性にあると思っていた。それが『NIPPON』ではもっと変幻自在に疾走している。名ドリブラーの流れるような動きを想起させる。

 ただ、実際のNHKの放送で頻繁にかかるのは、歌いだしの〈万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ 天晴〉の部分。「万歳」は「Hurray」と読む。何十年前かの小学校の運動会みたいに「フレー!フレー!」から始まるのである。ここは相当ずっこける。

 加えて、彼女の歌い方は基本的に言葉の意味が取りづらく、字幕なしだと私の耳には「フレ~フレ~日本バレー 熱湯臭い レアッパレー」と聞こえてしまう。「レアッパレー」とはなんなのだ。右翼的とか、国際的じゃないとか以前に、なにを言っているのか分からない。だから、歌詞が「問題作」でも、局的に問題になるほど大きな批判が起きる事態にはならない?

 もしNHKの人たちがそこまで先を読んで、この曲にOKを出していたのなら天晴だ。このコラムは非礼このうえないものであったと、謹んでお詫びを申し上げよう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン