国内

政府の成長戦略決定プロセスで「派手なバトル」が消えた理由

 安倍政権が発表する骨太の方針と成長戦略では、農業や医療、雇用など「岩盤規制」と呼ばれた分野の改革に手を付けたほか、いま35%の法人実効税率を数年で20%台に引き下げる方針も書き込まれた(本稿執筆時点では素案を決めた段階だが、骨格は固まった)。

 これらをどう評価するか。

 農業では全国農業協同組合中央会(全中)の役割見直しや全国農業協同組合連合会(全農)の株式会社化、医療は混合診療の拡大、雇用は成果主義やジョブ型正社員の導入など、いずれも大胆な方向性を打ち出した。

 全中見直しや全農の株式会社化など、数年前だったら言葉にするのも無理だったテーマだ。それでも、批判ないし反対論がある。

 骨太の方針と成長戦略の決まり方が変わった点にも注目したい。かつては経済財政諮問会議が官僚や抵抗勢力との戦場だった。ところが、今回の骨太や成長戦略は産業競争力会議のペーパーや規制改革会議の答申が書かれた段階で、実質的に与党や所管官庁との協議が終わっている。

 今回の政策決定では政治家同士の派手なケンカや怒鳴り合いもなかった。なぜかといえば、安倍政権に長期政権の見通しが出てきたからだ。議員たちには内閣改造というアメもちらついている。

 野党はといえば、再編に忙しく政策論議どころではない。バトルが大好きなマスコミはネタ枯れの状況だ。

 ただ、それも内閣の支持率次第である点は言及しておこう。官僚は強い政権には抵抗しない。だが政権に勢いがなくなってくると、自分たちの都合のいいように舞台裏で議論を差配するようになる。

 抵抗勢力がいなくなったのかといえば、そうではない。いまは息を潜めているだけだ。そもそも骨太の方針や成長戦略は「紙に書いた口上」にすぎない。どんな政策も究極的には法律に基づいている。農業も医療も、本当の勝負は来年の通常国会に出てくる関係法改正案の中身である。

(文中敬称略)

文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。

※週刊ポスト2014年7月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン