国際情報

官邸 北朝鮮が返す拉致被害者は有本恵子さんとの感触を掴む

 北朝鮮が日本からカネを引き出すための最大の駆け引き材料が拉致被害者という「人質」だ。国家ぐるみの重大犯罪を犯した側が交渉の主導権を握るという異常な関係の中、金正恩は安倍晋三首相に陽動作戦を仕掛けている。

 北朝鮮が誰を返してくるのか情報が錯綜する中で、複数の政府関係者から流れているのが、1人の政府認定拉致被害者の名前だ。

「まだ断定はできないが、官邸は北が返してくるのは有本恵子さんではないかという感触を掴んでいる」(官邸の安倍側近の1人)

 有本さんは1983年に留学先のロンドンで失踪。よど号ハイジャック犯の妻2人の工作で北朝鮮に連行されたと見られている。北朝鮮は、「1988年にガス中毒で一家3人全員が死亡した」と説明しているが、証拠は提示されていない。

 有本さんの帰国情報には2つの理由が考えられる。特定失踪者問題調査会代表の荒木和博・拓殖大学教授はこう語る。

「2002年の小泉訪朝前に有本さん帰国の情報が盛んに流れたことがありました。これは推測ですが、有本さんの名前が出ているのは北にとって入国の経緯を誤魔化しやすいからではないか。

 有本さんの場合、実態は拉致だったとしても、暴力的な手段で連れ去られたわけではない。留学先で工作員の甘言に騙され、北に入国したとされています。北朝鮮側にすれば、『拉致ではなく、本人の意思で入国し、その後もわが国に残った』と主張することができる」

 もう一つは、有本さんは安倍首相が拉致問題にかかわる原点になった被害者だったからである。

 1988年、同じ拉致被害者の石岡亨さんから日本の家族に手紙が届き、その中で有本さんの消息も伝えられていた。それを知らされた有本さんの両親は上京して、安倍首相の父で自民党幹事長だった安倍晋太郎氏に助けを求めた。その時、父の秘書として訴えを聞いたのは安倍首相その人である。

 北朝鮮側にすれば、そうした経緯から、「有本さんを帰国させる用意がある」とほのめかせば、たとえリストに載せる拉致被害者が1人だけでも、安倍首相は乗ってくると計算したのではないか。

※週刊ポスト2014年7月25日・8月1日号

関連キーワード

トピックス

高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
トランプ米大統領によるベネズエラ攻撃はいよいよ危険水域に突入している(時事通信フォト、中央・右はEPA=時事)
《米vs中ロで戦争前夜の危険水域…》トランプ大統領が地上攻撃に言及した「ベネズエラ戦争」が“世界の火薬庫”に 日本では報じられないヤバすぎる「カリブ海の緊迫」
週刊ポスト
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
新大関の安青錦(写真/共同通信社)
《里帰りは叶わぬまま》新大関・安青錦、母国ウクライナへの複雑な思い 3才上の兄は今なお戦禍での生活、国際電話での優勝報告に、ドイツで暮らす両親は涙 
女性セブン
東京ディズニーシーにある「ホテルミラコスタ」で刃物を持って侵入した姜春雨容疑者(34)(HP/容疑者のSNSより)
《夢の国の”刃物男”の素顔》「日本語が苦手」「寡黙で大人しい人」ホテルミラコスタで中華包丁を取り出した姜春雨容疑者の目撃証言
NEWSポストセブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン
秋の園遊会で招待者と歓談される秋篠宮妃紀子さま(時事通信フォト)
《陽の光の下で輝く紀子さまの“レッドヘア”》“アラ還でもふんわりヘア”から伝わる御髪への美意識「ガーリーアイテムで親しみやすさを演出」
NEWSポストセブン
ニューヨークのイベントでパンツレスファッションで現れたリサ(時事通信フォト)
《マネはお勧めできない》“パンツレス”ファッションがSNSで物議…スタイル抜群の海外セレブらが見せるスタイルに困惑「公序良俗を考えると難しいかと」
NEWSポストセブン
中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン