国際情報

韓国のベトナム派兵は誇りではなく「忘れたい歴史」になった

 韓国人にとってベトナム戦争は、民間人の大量虐殺事件など現代史における一大汚点であるため、“忘れたい歴史”になっている。産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏がベトナム戦争の韓国での扱われ方について報告する。

 * * *
 韓国は今年、ベトナム戦争参戦から50年になる。しかし記念行事はささやかなものだった。

 6月10日、ソウルの国立墓地で遺族会などによる慰霊祭が行なわれたが、政府高官の出席はなかった。慰霊祭も今年が初めてで、その経費5000万ウォン(約500万円)も政府の支援はなく自腹だったという。

 マスコミ報道は一部新聞に行事の写真が出た程度だった。同じころ亡くなった元慰安婦の老女(91)の死亡記事の方がはるかに大きかった。

 この慰安婦報道では生前、彼女を慰問し激励した首相と彼女が手を握り合っている写真がドーンと掲載されていた。今や韓国ではベトナム戦争の戦死者より元慰安婦の方が「愛国者」「国家的英雄」として国を挙げて称えられている。

 韓国のベトナム派兵はまず1964年、医療・工兵など非戦闘部隊を派遣し翌1965年から本格的に戦闘部隊を投入した。

 1973年まで8年間で延べ約32万人を派兵、うち約5000人が戦死し1万人が負傷している。国立墓地の埋葬者数は朝鮮戦争の犠牲者(約19万人)に次ぐ。

 韓国軍はベトナムでの米軍支援が目的だったため、米国の派兵要請によると思われているがそうではない。実は韓国側の強い要請によるもので、最初は断わられている。

 当時の韓国は朴槿恵大統領の父、朴正煕政権時代で反共意識が強く「北の脅威」下で軍事強化、経済建設に必死だった。同盟国・米国への軍事協力を通じた韓国軍強化と“戦争特需”による経済建設という一石二鳥の狙いがあった。

 韓国軍がベトナムに出向くことで対北安保体制弱化を懸念していた米国も、やがて派兵にOKした。

 韓国にとっては「共産主義から自由を守る正義の戦い」「朝鮮戦争時の米国の支援に対するお返し」だったが、結果は米軍撤退と南ベトナム崩壊、南北共産化統一で“負け戦”になってしまった。米韓軍を追い出して勝った統一ベトナムからすると米韓軍は侵略者である。

 この結果、韓国でのベトナム派兵は“誇るべき歴史”とはならず、いわゆる民主化時代の1990年代以降は“忘れたい歴史”になってしまった。派兵50周年の寂しい(?)風景はそのせいである。

※SAPIO2014年8月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

新恋人のA氏と腕を組み歩く姿
《そういう男性が集まりやすいのか…》安達祐実と新恋人・NHK敏腕Pの手つなぎアツアツデートに見えた「Tシャツがつなぐ元夫との奇妙な縁」
週刊ポスト
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
あとは「ワールドシリーズMVP」(写真/EPA=時事)
大谷翔平、残された唯一の勲章「WシリーズMVP」に立ちはだかるブルージェイズの主砲ゲレーロJr. シュナイダー監督の「申告敬遠」も“意外な難敵”に
週刊ポスト
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン
35万人以上のフォロワーを誇る人気インフルエンサーだった(本人インスタグラムより)
《クリスマスにマリファナキットを配布》フォロワー35万ビキニ美女インフルエンサー(23)は麻薬密売の「首謀者」だった、逃亡の末に友人宅で逮捕
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左/バトル・ニュース提供、右/時事通信フォト)
《激しい損傷》「50メートルくらい遺体を引きずって……」岩手県北上市・温泉旅館の従業員がクマ被害で死亡、猟友会が語る“緊迫の現場”
NEWSポストセブン
財務官僚出身の積極財政派として知られる片山さつき氏(時事通信フォト)
《増税派のラスボスを外し…》積極財政を掲げる高市早苗首相が財務省へ放った「三本の矢」 財務大臣として送り込まれた片山さつき氏は“刺客”
週刊ポスト
WSで遠征観戦を“解禁”した真美子さん
《真美子さんが“遠出解禁”で大ブーイングのトロントへ》大谷翔平が球場で大切にする「リラックスできるルーティン」…アウェーでも愛娘を託せる“絶対的味方”の存在
NEWSポストセブン
ベラルーシ出身で20代のフリーモデル 、ベラ・クラフツォワさんが詐欺グループに拉致され殺害される事件が起きた(Instagramより)
「モデル契約と騙され、臓器を切り取られ…」「遺体に巨額の身代金を要求」タイ渡航のベラルーシ20代女性殺害、偽オファーで巨大詐欺グループの“奴隷”に
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《ビザ取り消し騒動も》イギリス出身の金髪美女インフルエンサー(26)が次に狙うオーストラリアでの“最もクレイジーな乱倫パーティー”
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 維新まで取り込む財務省の巧妙な「高市潰し」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 維新まで取り込む財務省の巧妙な「高市潰し」ほか
NEWSポストセブン