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がんで母親を亡くした少女の感涙実話「はなちゃんのみそ汁」

「はなちゃ~ん、ステージの上へどうぞ」──。がんで他界した安武千恵さん(享年33)の七回忌を迎えて、7月12日に福岡で開かれたコンサート。途中、大きな拍手で迎えられた娘のはなちゃん(小6・11才)は、緊張の面持ちながらも千恵さんの友人のミュージシャンらと『ふるさと』など5曲を歌いきった。

『ふるさと』は千恵さんが亡くなる約2週間前に、自宅で歌った曲。その時、千恵さんは小さな声しか出せなかったけれど、この日、はなちゃんは元気いっぱい大きな声で歌ってみせた。天国のお母さんにも聞こえるように。

 声楽家で、北九州市の小学校で音楽教師をしていた千恵さんが乳がんと診断されたのは2000年7月、25才のときだった。

 つらい治療を終え、2001年8月、西日本新聞社で記者をしていた安武信吾さん(50才)と結婚。2002年6月には、妊娠が判明する。妊娠中は女性ホルモンの分泌が増えるため、がん患者にとって出産はがん再発のリスクを背負う。だが千恵さんは周囲の支えと実父の「死ぬ気で産め」の一言で、命がけで産むことを決意。2003年2月、誕生したのがはなちゃんだった。

 だが、その年の11月には恐れていたがんが再発する。食生活の改善やホルモン療法を行って、一時は奇跡的にがんが消えたものの、再び体調が悪化。2006年10月に受診したときにはがんはすでに全身に転移していた。抗がん剤や食事療法などさまざまな方法を試した。骨にも転移し、千恵さんははなちゃんを立って抱くことができなくなった。2007年6月1日のブログでこう綴っている。

《「ごめんね。ママはビョーキで痛いからね、抱っこできないの」と言った日から、ムスメは、私に向かって「抱っこ~」と言わなくなった。たったの一度も》

 そして2008年7月、千恵さんはこの世を去った。まだ5才だったはなちゃんを遺して。

 壮絶な闘病の末に最愛の妻を失った信吾さんの喪失感はあまりにも大きかった。信吾さんが振り返る。

「先が見えない、未来が見えない状態で…子育てをする自信もなく、途方に暮れて酒ばかり飲んでいました。夜、祭壇の前で遺影を見て、しくしく泣きながら…」

 そんな状態が1か月以上続いたある朝、信吾さんがつらそうな表情で台所に立っていると、その傍らではなちゃんが包丁を取り出した。豆腐を小さな手のひらの上にのせ、ゆっくりと切ると、ガスの火をつけ、カツオの出汁を張った鍋の中に入れる。その手つきは驚くほど手なれていた。

「千恵は亡くなる半年ほど前から、はなにみそ汁作りや玄米の炊き方などを教えていたんです。“自分がいなくなっても2人が困らないように”と。料理だけでなく、お風呂掃除や靴ならべ、洗濯物たたみ、自分の洋服の管理、保育園の準備など、やらせてみるとはなは身の回りのことはほとんど一人でできるようになっていました。体が覚えていたんですね」(信吾さん)

 千恵さんは生前、ブログにこう綴っていた。

《私は、がんになった後に、ムスメを授かりました。だから、この子を残して、死ななければなりません。(中略)だから、厳しいと揶揄されようとも、彼と彼女が自分の足で生きていけるようになるまで、心を鬼にして、躾をするまでです》(2008年2月16日)

 それから、はなちゃんは毎朝、みそ汁を作るようになった。

「ごはんとみそ汁は元気をくれるって、ママが言ったんだよ。ママと指切りげんまんしたから、はな、毎日作るよ」と言って。

 そして2012年3月、千恵さんが遺したブログに信吾さんが家族の思いを加筆した『はなちゃんのみそ汁』(文藝春秋刊)が出版された。本は多くの人の感動を呼び、またたくまにベストセラーになった。

 それから2年あまり。11才になったはなちゃんのみそ汁作りは、今も続いていた。

「厳しくしつけをしていた千恵は、はなにとって怖い存在だったと思います。今も千恵にずっと見られているという感覚があるのだと思います。『お母さんが天国から見とるから』とよく言っていますから」(信吾さん)

※女性セブン2014年7月31日・8月7日号

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