2月、ソチ五輪スノーボード女子パラレル大回転で日本人初のメダルとなる銀メダルを獲得した竹内智香選手。「智香だからできるんだよ」周囲はそう讃えたが、今から7年前、彼女は代表チームから外された選手だった。そんな彼女が、起伏に富んだ半生を綴った『私、勝ちにいきます』(小学館刊)を上梓。同書を読んだ先輩にして友人、高橋尚子さんとの特別対談が実現。ふたりの会話は、成功へのヒントで満ち満ちていた──。
高橋:今年2月のソチ五輪、スノーボード女子パラレル大回転で日本人初の銀メダルを獲得。おめでとうございます!
竹内:ありがとうございます。でも正直、金メダルが獲れなくて本当に悔しかったんです。五輪4度目となったソチは、新たなフィジカルトレーニングやコーチのフェリックスを含め素晴らしいスタッフたちのおかげで完璧な仕上がりだっただけに、私は金メダルのことしか考えていなかったんです。
それが、決勝ラウンドの2本目にコケちゃって。転んで負けて悔しかったけど、コーチやスポンサーのかたがたが喜んでくれたり、日本人のみなさんの声援を聞いた時、“メダルが獲れてよかった”って思いました。でも、金じゃないから、やっぱり悔しかったな(笑い)。
高橋:キャスターとして智香ちゃんを取材した時、いちばんびっくりしたのが、国内練習で雪の上に乗らなかったこと。フィジカルトレーニングばっかりで、全然滑らない。私は走ってないと不安で仕方ないタイプだから、なんて天才肌な人なんだろうって。
竹内:そうなんですか(笑い)。
高橋:ソチでも取材に行ったんだけど、待てど暮らせど本番の会場に全然来なくって。取材に来ていたテレビ局の人に聞いたら、“今日は天候が悪いから、竹内さんは来ないよ”って(笑い)。
竹内:2010年から2011年シーズンにかけて、私は「頭の中で滑る」トレーニングをしていました。練習で滑った雪質の感触や環境を、家に戻ってから脳に記憶させて、オフの時期や悪天候で練習できない時に頭の中で滑ってみる。そのおかげでフィジカルトレーニングに時間を使えるし、いつも良いイメージで本番に臨めるんです。
イメージトレーニングはスノーボードに限らず、いろんな分野で役に立つといわれています。実際にあった成功体験を細かいところまで記憶して、それを思い返すように初めからイメージしていくと、現実に繰り返したかのような経験値が得られると思います。
高橋:それにしても、本番になって雪をひと目見た瞬間に“ああ、私の雪だ”って自信が持てたんでしょ? オンとオフの切り替えもすごく早いんだと思う。本番前に練習ができなかった時は、何をしてたの?
竹内:マトリョーシカを作ってました(笑い)。
高橋:ええっ!?
竹内:選手村にマトリョーシカの色塗りがタダでできるところがあって、そこにフェリックスと行って、ずっと色塗りしてたんです。本番が近くても、いつもの自分でいられる時間がないと、レースで集中力が使えないので(笑い)。
あ、そうそう、私、レース会場に行ったのは本番当日が初めてだったから、大変なことが起きたんです。フェリックスと会場に向かう途中で道に迷っちゃって、「このままじゃ、間に合わないよ!!」って、大げんかしちゃいました。
高橋:本番間際で!?
竹内:はい、そうです。あの日、いちばん緊張したのはレースじゃなくて、実はその時でしたね(笑い)。人間の集中力はそうそう長くは続かないもの。肝心な時にちゃんと集中するためにも、リラックスする時間は大切なんです。
※女性セブン2014年8月21・28日号