ライフ

北大が研究中の新放射線治療 がん組織を効率良く狙って破壊

 がんの3大治療といえば「手術」「抗がん剤」「放射線治療」だ。現在、原理的にがん細胞だけを破壊することができる「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」の研究を、京都大学原子炉実験所が進めて注目を浴びているが、BNCTと同様に正常な組織に与えるダメージを極小化する放射線治療であり、かつ深い部位でも治療できる方法が北海道大学で研究されている。

 違いは、X線でも中性子線でもなく「陽子線」を使うことだ。陽子線は他の放射線とは異なり人体の奥深くでその照射エネルギーが大きくなる性質を持っている。その性質をうまく使えば肝臓のような体の深部にあるがんを治療できる。

 陽子線治療は先進医療としてすでに全国9か所で行なわれている。その中で北大病院は今春、前述の陽子線の長所をさらに伸ばした「スポットスキャニング」と呼ばれる最新技術を導入した。同院の陽子線治療センター長・白土博樹氏が解説する。

「スポットスキャニングは日立製作所が開発した新しい照射法です。従来の放射線よりも、照射エネルギーが最大になる深さをピンポイントで調節できるようになったことが特徴です」

 X線による放射線治療では、照射エネルギーが体の浅い部分で最大になることが多かった。深部のがんでは、どうしても患部より手前にある正常な組織にもダメージを与えてしまう。その点、陽子線治療は体の深部で照射エネルギーが大きくなる。さらにスポットスキャニングを用いた最新の陽子線治療では、より患部にエネルギーが集中するようコントロールできるため、正常な細胞を傷つけにくい。

 放射線治療は、がん組織めがけて四方八方から少量ずつ照射する。同じ方向から照射し続けると正常な組織にもダメージが蓄積してしまうからだ。効率良くがん組織を狙えるスポットスキャニングによって陽子線を多方向から患部に当てれば、「がん組織だけを強いエネルギーで壊す」ことが可能になる。

 対象となるがんは、「頭からつま先まで、固形がんであれば種類を問わない」(白土氏)。特にX線では治療が困難とされる大きながんに向いているという。照射に要する期間は個人差があるが、1回30分~1時間で、1週間から1か月半かけて行なうという。

 3月にスポットスキャニングを導入してから11例の臨床研究を行ない、いずれも従来のX線による治療より副作用の報告が少なかった。中長期的な経過観察はこれからだ。

※週刊ポスト2014年8月15・22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

“令和の小泉劇場”が始まった
小泉進次郎農相、父・純一郎氏の郵政民営化を彷彿とさせる手腕 農水族や農協という抵抗勢力と対立しながら国民にアピール、石破内閣のコメ無策を批判していた野党を蚊帳の外に
週刊ポスト
緻密な計画で爆弾を郵送、
《結婚から5日後の惨劇》元校長が“結婚祝い”に爆弾を郵送し新郎が死亡 仰天の動機は「校長の座を奪われたことへの恨み」 インドで起きた凶悪事件で判決
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
「最後のインタビュー」に応じた西内まりや(時事通信)
【独占インタビュー】西内まりや(31)が語った“電撃引退の理由”と“事務所退所の真相”「この仕事をしてきてよかったと、最後に思えました」
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬・宮城野親方
【元横綱・白鵬が退職後に目指す世界戦略】「ドラフト会議がない新弟子スカウト」で築いたパイプを活かす構想か 大の里、伯桜鵬、尊富士も出場経験ある「白鵬杯」の行方は
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン