国際情報

三大宗教の聖地 エルサレムで触れたイスラエル人の日常生活


エルサレムに住む人々の日常

イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区への侵攻を行う昨今。ニュースでは多数の死者が出ていることが報道されており、この国への注目は日に日に高まっている。日本人には物騒な印象のイスラエルだが、実際に訪れてみると、人々は働き、物を買い、食べて飲んで祈り、世界の街で見てきたものと変わらない人々の生活があった。

筆者が滞在した街は、ユダヤ、イスラム、キリスト教徒の聖地があるエルサレムだ。観光地としても人気があり、各宗教の巡礼者をはじめ、多くの旅行者がこの街を訪れている。?城壁に囲まれた旧市街には、石造りの細い路地が続き、数多くの史跡が立ち並んでいた。建物は石造りで、中世の町並みをそのままに保存している。

高低差の激しい土地に建設されたからか、街を歩く時は常に、坂道や階段を登ったり降りたりする必要がある。この町並みの中をイスラエル料理のファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)でもつまみながら散歩したりすると、別の時代に迷い込んだようで楽しい。

街はユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒ごとに居住区が決められており、ユダヤ・キリスト教徒の居住区は比較的きれいに保たれている。イスラム教徒の居住区はゴミがまばらに落ちている印象があるが、賑やかで雑多な商店が立ち並んでおり、他の居住区に比べると人々も活気に満ちている。

旧市街の城壁を出て新市街に出ると、国立のイスラエル博物館周辺の広い公園では、家族連れがBBQをしており和やかな空気が流れていた。新市街の目抜き通りでは、軍服姿の若者の姿が目立つ。イスラエルでは一部の例外を除き、男女共に18歳から兵役が義務づけられている。

街で見かけた兵士の一人は、警備任務の休憩中か、サボり中なのかは分からなかったが、サブマシンガンを肩にかけたままアイスクリームを口にしていたり、ブティックの買い物袋を下げた兵隊も見かけた。初めて見たサブマシンガンは重く冷たく感じたが、地元の人は気にするそぶりもなかったので、エルサレムでは日常的な風景なのだろう。

国民の安全な生活を守るため、イスラエルでは徹底した治安管理が行われている。まず、大きなショッピングモールに入るには、荷物のチェックが必要だ。空港のセキュリティチェックと同様、ゲートをくぐり、荷物はX線で中身を確認される。出国するときも、バッグの底まで荷物を調べられ、パンツ一丁になるまでボディチェックを行われた。?

厳しい治安管理のためか夜間の一人歩きも、地区によっては問題ない。新市街にはデートに使いたくなるような洒落たレストランもあるし、クラブや、酒場だって当然ある。若い人がそのような場所で笑い、楽しんでいるのは、他の世界の大都市と変わらぬ風景だ。

筆者がエルサレムで滞在した宿は、迫害を逃れたキリストがローマ軍に捕まったとされる“オリーブの丘”を登った先にあった。イブラヒムというおじいさんが自宅を開放している宿で、食事付きで料金も安いため、日本人のバックパッカーから人気のある宿だ。この宿がある地区はイスラム教徒が多く、住んでいるのは主にアラブ人だ。

宿に滞在して数日が経った時、事件が起こった。路上で遊んでいる子供の前を通りがかった時「ハーイ!」と挨拶をされたのだが、続けざまにツバを吐きかけられたのだ。ツバはこちらに届くことはなく、筆者は自転車に乗っていたため、その場は走りすぎたが、一瞬、何が起きたのか分からなくなった。こちらはただ通り過ぎただけなのだ、何も悪いことはしていない。

夜、宿に帰って、ボランティアで長期滞在しているタイ人の女性に話をしたところ、彼女も石入りの雪玉を投げつけられたと聞いた。この時も特に理由はなかったそうだ。その雪玉は彼女の額に当たり、流血したそうだが、周辺住民との衝突を避け、泣き寝入りしたと聞いた。

?言葉が通じない中ではお互いのバックグラウンドが分からず、相手をアイコン化して捉えてしまいがちで、誤解が生まれやすい。イスラエルは経済協力開発機構(OECD)の調査で、相対的貧困率(大多数よりも貧しい「相対的貧困者」の全人口に占める比率)が高いとされた国のひとつだ。

見た目が彼らとは違い、イスラエルでは目立ちがちな私たちアジア人は、海外に旅行できる裕福な人種として、子供たちの嫉妬を買ったのかもしれない。この出来事を通して、少しやるせない気分になったが、もちろん、エルサレムのアラブ人の子供が、そのようなことをする子供だらけなわけではないことを追記しておく。

ストリートアートのスター、バンクシーのウォールアートを見にパレスチナ自治区に足を踏み入れた時も、そこには変わらない人々の暮らしがあった。パンを作る人、タクシーの運転手をする人、お土産を売る人、カフェでコーヒーを飲む人。小銃を持った警備兵がいる以外は物騒な気配は微塵もないと感じた。?イスラエルは旅行者にとって大変魅力的な土地である。かの国の人々に平和が戻り、また訪問できる日が来ることを、筆者は願ってやまない。

(文・鈴木雅矩)

関連キーワード

トピックス

2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
卓球混合団体W杯決勝・中国-日本/張本智和(ABACA PRESS/時事通信フォト)
《日中関係悪化がスポーツにも波及》中国の会場で大ブーイングを受けた卓球の張本智和選手 中国人選手に一矢報いた“鬼気迫るプレー”はなぜ実現できたのか?臨床心理士がメンタルを分析
NEWSポストセブン
数年前から表舞台に姿を現わさないことが増えた習近平・国家主席(写真/AFLO)
執拗に日本への攻撃を繰り返す中国、裏にあるのは習近平・国家主席の“焦り”か 健康不安説が指摘されるなか囁かれる「台湾有事」前倒し説
週刊ポスト
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン