アベノミクス“第三の矢”がいよいよ放たれた。成長戦略の成果が待たれるなか、その行方を占うのが「国家戦略特区」である。規制改革の実験地として、そして地方起点の取り組みとしていま、大いなる注目を集める。アベノミクスの恩恵は地方に届かないと嘆かれてきたが、地方からの改革は果たして中央に届くのか。新刊『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)を上梓した元キャリア官僚・原英史氏が、国家戦略特区について解説する。
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特区、つまり地域限定で規制改革の実験を行なうという考え方は、決して新しいものではない。小泉内閣で設けられた構造改革特区、民主党政権で設けられた総合特区も、基本的には同様の発想だった。
特に前者は、制度創設初期には、例えば農業への企業参入解禁(ただし農地は所有せずリース方式に限る)など、いわゆる岩盤の一部に穴をあけるような大きな成果もあった。地方自治体が自ら手を挙げる方式が奏功し、意欲ある自治体が斬新な提案を国にぶつけるという、それまであまり見られなかった動きも生じた。しかし、その後、徐々に下火になり、結局、岩盤規制のほとんどは手つかずのまま、今日に至っている。
こうした成功と失敗を踏まえ、今度こそ岩盤規制を打ち破るべく、「国が受け身」にならない、新たな特区の枠組みを設けよう……というのが、産業競争力会議で民間議員からなされた提案だった。
具体的には、2つの仕掛けが提案された。
・特区ごとに、国(特区担当大臣)・自治体(知事、市長)・民間の三者で構成する、いわばミニ独立政府を設け、そのもとで特区ごとの政策運営を行なう
・ミニ独立政府の政策運営の中で、国の法令に関わる規制改革ニーズが生じた際は、総理のもとで、特区担当大臣と規制所管大臣が民間識者を交えて議論し、最後は総理が決断する仕組みを作る。これにより、規制所管省庁が反対するために何も動かないという、よくある事態を解消する
そして、この提案を安倍内閣は受け入れ、昨年の臨時国会に「国家戦略特区法案」が提出された。
法案では、上記2つの仕掛けがそれぞれ、「区域会議」(ミニ独立政府)、「特区諮問会議」(総理決断で改革を進める仕掛け)という形で条文化され、昨年12月に成立に至った。さらに、こうした枠組みに加えて、特区内で今すぐ実験的に活用できる特例措置の「初期メニュー」も定められた(規制改革メニューは右記仕掛けを用いてさらに追加されていく)。