「涙があるからこそ、私は前に進めるのだ」というのは、インドの宗教家マハトマ・ガンジーの言葉。今回はあらぬ誤解によって傷ついた心が息子によって癒されたという40代主婦のエピソードを紹介します。
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不妊治療の末に授かった5才になる一人息子が、ある日、自宅の段差につまずいて頬に大きなあざをつくってしまいました。急いで病院へ連れて行くと、とくに異常はなく、先生からは「男の勲章だ」と言われました。
ところが、息子のあざが消えないうちにレストランへ行った時のこと。隣に座った年配の女性2人が、息子の顔を指さし、「これ、虐待よ!」と大声で話し始めたんです。その声に、周りの人もジロジロ。息子は低体重で生まれたせいか、標準より体が小さくやせています。隣の女性たちはそれも話題にし、「ご飯もあげてないんじゃない、かわいそうに」とか「虐待って、流行ってるわよね」などと、こちらを見ながら話し続けていました。
ようやく生まれてきてくれた息子のことは、大切に育ててきたつもりです。よりにもよって、虐待を疑われるなんて…。こみ上げてくる涙をこらえるように目を閉じると、私の手に感触がありました。細い腕をいっぱいに伸ばして、息子が両手を私の手に重ねてきたのです。
「ぼくは大丈夫だよ。このけがは男の勲章だもんね」
もみじのように小さな手に、枝のように細い腕…。それでも息子は立派に男として私を守ろうとしてくれたんです。
周りも虐待がないことがわかったのか、ばつが悪そうに静かになりました。この子の母になれたことが私のいちばんの誇りです。
※女性セブン2014年9月11日号