国内

盲導犬 数が少ないため誤解多く飼い主が虐待疑われることも

 さいたま市在住の全盲の男性Aさんの飼うラブラドールレトリバーの盲導犬オスカー(雄8才)の右背中に4つの刺し傷があった痛ましい事件。オスカーの事件だけでなく盲導犬を取り巻く環境は厳しいようだ。飼い主がどれだけ愛犬をケアしても、周囲の人間の攻撃までは防げない。

 Aさんによれば、これまでもオスカーはさまざまな嫌がらせに遭ってきたという。

「例えばチューインガムをつけられたり、つばを吐きかけられたり、歩行者に蹴られたり…。こういうことは過去に何度もありました。警察に行っても、どこでどんな人にどうされたか、私は目が見えないし、オスカーはしゃべれないので、説明ができないんです。されるがまま、というのが実情なのです」(Aさん)

 実際、盲導育成団体のひとつ『社会福祉法人日本ライトハウス』(大阪市)によれば、盲導犬に対する悪質な虐待行為は、全国で何件も起きているのだという。

「たばこの火を押しつけられたケースもありますし、今年に入ってからも、バス停で待っている時に、飼い主と盲導犬が水をかけられるケースがありました。警察に届け出ても、“現行犯でないと難しい”と言われ、なす術がありません」(同法人の盲導犬訓練所所長・田原恒二氏)

 他にも、マジックで盲導犬の顔に落書きをしたり、歩行中の盲導犬のしっぽを引っ張ったり、わざと邪魔をして通行を妨げたり、飼い主に視覚障害があることにつけ込んだ嫌がらせは、日常的に起きているという。

 また、常に行動を共にしていれば、オスカーが判断ミスをすることもあり、この時のAさんの対応が、周囲に思わぬ誤解を生むこともある。

「止まるところで止まらなかったり、道を間違えたり。そういうときはちゃんと叱ります。そうすると“あなたは動物を虐待している!”と怒って抗議してくるかたがいるんです。

 盲導犬と人間は一方的に溺愛したり、なれ合う関係ではいけないので、ミスをしたらその場で“叱って教える”必要があります。決して感情的になって怒っているわけではないのですが、これが理解されず、虐待だといわれてしまうのはつらいです」(Aさん)

 中には、盲導犬自体について、“人間が無理矢理奴隷のように働かせているので虐待だ”という人もいるという。こうした言動は、多くの場合、盲導犬に対する無知ゆえに引き起こされている。

 現在、全国の視覚障害者30万人に対して、実働する盲導犬の数はわずか1000匹。盲導犬になるには、およそ1年間の訓練期間に加えて難しい適性テストをクリアする必要があり、オスカーを育てた盲導犬訓練所『アイメイト協会』(東京・練馬)でも、新たに世に送り出せる盲導犬は毎年30匹前後だという。視覚障害者が盲導犬を望んだとしても、“1年待ち”というのはザラだという。

 絶対数が少ないため、私たちが日常生活で盲導犬を目にする機会はめったになく、その接し方も知られていない。だから、いざ遭遇すると、好奇の目を向けてしまう。

「電車の中とかレストランの中とか、椅子の下で盲導犬は座っていますよね。でも、これは休んでいるわけではなく、“待機”という仕事をしているんです。餌をあげたいとか、触ってみたい、という周囲のかたの気持ちはわかるのですが、仕事中なので、どうか触らずにそっと見守ってください。触ろうとするかたにその旨を伝えると、“別にあなたを触っているわけじゃないでしょ!”と文句を言われることもあります」(Aさん)

 2002年に身体障害者補助犬法が制定され、公共の場で盲導犬、聴導犬、介助犬の入場を拒否してはいけないとする決まりができたが、Aさんによれば、コンビニや飲食店で、「犬は入れません」と、入店拒否されることは、今もよくあるという。

※女性セブン2014年9月18日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
鳥取の美少女として注目され、高校時代にグラビアデビューを果たした白濱美兎
【名づけ親は地元新聞社】「全鳥取県民の妹」と呼ばれるグラドル白濱美兎 あふれ出る地元愛と東京で気づいた「県民性の違い」
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を9月に上梓したルポライターの松本祐貴氏
『ルポ失踪』著者が明かす「失踪」に魅力を感じた理由 取材を通じて「人生をやり直そうとするエネルギーのすごさに驚かされた」と語る 辛い時は「逃げることも選択肢」と説く
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン