本来なら、朝日はもっと早い段階で「強制連行の記事は間違いだった」と訂正、謝罪すべきだった。いまになって「記事はデタラメだったが、女性の集められ方は関係ない。自由を奪われ性行為を強いられた点が問題だ」というのは話のすり替え、はっきり言えば言い逃れである。
読者とすれば「強制連行だった」と思い込まされていたのに「慰安所で自由がなかったのが問題なんだ」と言われたら「いまさら話をごまかすなよ」と言いたくなるのも当然ではないか。
私は新聞がいつも正しい報道をしているとは思わない。いまや誤報専門の検証サイトがあるくらいだ。私が籍を置く東京新聞だって、かつて田均日記改ざん報道や自衛隊クーデター事件という大間違いを犯している。
問題は間違ったときに、どう正直に認めて謝罪し、再発防止策をとるか、である。今回の朝日はそのあたりがいかにも中途半端なのだ。
もしも一連の記事が、ある種の政治思想的立場と思い込みによって書かれていたなら、もっと事態は深刻である。似たような間違いはまた起きる。
(文中敬称略)
文■長谷川幸洋:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)。
※週刊ポスト2014年9月19・26日号