国内

門田隆将 朝日新聞「吉田調書」報道の罪 全文掲載【5/6】

 朝日新聞社長による謝罪会見へつながった「吉田調書」問題。先鞭をつけたのは、週刊ポスト6月20日号(6月9日発売)が掲載したジャーナリスト・門田隆将氏によるレポート〈朝日新聞「吉田調書」スクープは従軍慰安婦虚報と同じだ〉だった。門田氏は、福島第一原発所長だった吉田昌郎氏を生前、唯一インタビューしたジャーナリストである。朝日新聞が書いた「所長命令に違反 原発撤退」はあり得ないと主張した門田氏に対し、朝日はどう答えていたか。改めて、全文を紹介する。

 * * *
(門田隆将 朝日新聞「吉田調書」報道の罪 全文掲載【4/6】のつづき)

 この時の状況説明で意図的なのか、朝日が「省略」している部分がある。

 それは、この直前に菅直人首相が東電本店に乗り込み、テレビ会議を通じて、痛烈な演説をおこなっていたことだ。

「事故の被害は甚大だ。このままでは日本国は滅亡だ。撤退などあり得ない! 命がけでやれ」

「撤退したら、東電は百パーセントつぶれる。逃げてみたって逃げきれないぞ!」

 撤退を“全面撤退”と勘違いした菅首相の凄まじい怒りは、テレビ会議の画像と音声で福島第一の緊急時対策室にも響き渡った。

 サプチャンから大きな音が響き、圧力がゼロになったのは、その直後のことであり、吉田氏が、「必要最小限の人間を除いて退避」を命じたのは、そんな時だったのである。吉田氏はその時、突然、作業用ヘルメットをかぶっている。これこそ吉田氏の苦悩を表わすものだったと私は思う。

「撤退したら、東電は百パーセントつぶれる。逃げてみたって逃げきれないぞ!」

 吉田氏は一国の総理がそう言い放った直後に、福島第二に「必要最小限の人数」を除いて部下たちを退避させなければならなかったのである。この状況を考えれば、吉田氏の行動や発言の意味はすぐわかるはずだが、朝日の記事では、そんな事情には触れられていない。

 菅首相の演説があるさらに前、すなわち15日未明に吉田氏は緊対室から廊下に出て、協力企業の人たちに対してこう叫んでいる。

「本当に今までありがとうございました。協力企業の方々はお帰りいただいて結構です」

 その後、体力の限界だった吉田氏は、朝4時から5時頃、自分の席からぺたりと床に座り込み、座禅をするような格好で、物思いに耽った。それは「一緒に死んでくれる人間」の顔を思い浮かべる強烈なシーンにほかならなかった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン