翌年は朝の連続テレビ小説『なっちゃんの写真館』に出演。今度は一転して、ヒロインの夫・亮平を爽やかに演じている。
「伊東祐之は顔を斬られヒゲを伸ばし、ボロボロでした。それを観た別のプロデューサーに『今度は顔を綺麗にしてみませんか』と言われまして。
ただ、最初は『こんなのでいいのかな』みたいな感じで演じていました。そうしたら演出家が本当に表情や動きのいい時にワンカットごとに来てくれて、『凄く綺麗に映っている』『今のいいよ。今の気持ちで演じて』と言ってくれるんです。『こういう風に映ると美しい』とか『端正に見える』とか、そういう言い方ってそれまでされたことがありませんでした。
激しいとか、怒っているとか、そういう激情の極みみたいなものを追いかけすぎていたものですから。『程よい』とはどういうことなのか、教えてもらいましたね。
劇中で二人の新居を持って、庭の井戸水を手ですくって飲んで『いい水だ』という場面があるのですが。これが本当においしい水に思えたんです。僕はそんな嬉しい気持ちで言っただけなのですが、演出家からは『それだよ、滝田君。その顔を何度も見せてほしい』と。それで、常に気持ちのいい空気、風を感じることを意識して演じることにしました。人生の両極端をあの二年で演じたと思いましたね」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。
※週刊ポスト2014年9月19・26日号