代々木公園周辺で発生したデング熱感染。デング熱は重症化する可能性が低いとはいえ、その感染者は100人を超えるなど、日本列島を不安に包んでいる。
しかし、気をつけるべきはデング熱だけではない。それ以外にも、蚊が媒介する感染症が日本に入ってくる可能性があると話すのは、害虫防除技術研究所所長で医学博士の白井良和さんだ。
「まずは、1999年にニューヨークで流行したウエストナイル熱が懸念されます。熱帯・亜熱帯地域のような暑いアフリカの他、ヨーロッパでも発生していた感染症で、冬に雪が降るニューヨークで感染が確認されました。ニューヨークで起こったのだから、日本でも感染者が出る可能性はあります。
この病気は感染すると約20%の人に倦怠感と高熱、嘔吐などの症状がでます。重症化すればウエストナイル脳炎となり、精神錯乱や呼吸不全に陥った後に死亡することもあり、致死率は重症患者のうち3~15%といわれています」
ウエストナイル熱はデングウイルスを媒介する蚊と同じヒトスジシマカをはじめ、アカイエカ、ヤマトヤブカといった在来の数種類の蚊を媒介して感染する。
そうした感染症の媒介となる蚊が海外から国内へ入ってくる経路について白井さんが解説する。
「ウイルスを持った蚊が、旅行者のかばんに入り込んだり、服の裾から潜り込んだりして運ばれてくることがあります。卵が何かについて持ち込まれることもあります。感染者が日本に来て日本の蚊が刺すことで感染が広がることもある。潜伏期間は症状がでないため、感染者が知らず知らずのうちにいろいろな場所に行って広がることになるのです」
そのため、一旦ウイルスが国内に入ってしまった場合は感染が広がる可能性が高いと言う。白井さんが続ける。
「同じく蚊を媒介するチクングニア熱も危険な感染症です。高熱や関節痛、重症化すると肝炎や脳炎を発症します。殺虫剤をまいても完全に蚊を駆除するのは難しいですし、これも日本に多く生息するヒトスジシマカが媒介するので注意が必要です。
2005~2006年にはインド洋にあるフランス領のレユニオン島で26万4000人の感染者がでて、237人が死亡しています。過去に日本でも、海外で感染した人が帰国してウイルスを国内に持ち込む“輸入感染”がありました」
白井さんはこれから秋にかけて、前述したウエストナイル熱に注意が必要だと言う。
「アメリカでは8~10月に感染数が多いと報告されているので、これからの時期に日本に入り流行する可能性が充分にあります。媒介するアカイエカの活動期は5~6月と9~10月の少し涼しくなった時期といわれ、研究者たちは10年以上前から国内流行を懸念しています。今まで入ってこなかったのが幸運なのかもしれません」
新渡戸文化短期大学学長で医学博士の中原英臣さんもこう指摘する。
「ウエストナイル熱を媒介するアカイエカは越冬しないといわれていて、ニューヨークで流行したときも『冬を越せば大丈夫』といわれました。しかし、温暖化の影響があったのか越冬しウエストナイル熱が常態化して全米に広がったのです。現在日本で流行しているデング熱も、“冬になれば蚊が死ぬから大丈夫”だと厚生労働省はいっていますが、蚊が越冬して同じことが起こる可能性があります」
蚊によって広がる “殺人ウイルス”はこれにとどまらない。
「他に可能性があるのは、野口英世も罹った致死率の高い黄熱病。このウイルスを媒介するネッタイシマカは、気温15℃くらいでも充分に活動できるため、温暖化が進んでいる日本で越冬できる可能性がある。日本に入ってきたネッタイシマカがそのまま定着してしまう可能性もあります」(白井さん)
※女性セブン2014年10月2日号